88話 夢
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で笑ってしまいそう。
「主」
胸に手を当て、深々と頭を下げた彼女は未来予知の能力を行使する。夢の中の彼女は、彼女の望み通りルゼル兄上の許嫁で、私について私を守る護衛でもあった。
兄上が生きていた。生まれていた。一つ年上の兄上は……体の弱い、美しい人だった。優しい、優しい、妹想いの、賢い人だった。私は夢の中でさえ彼の代わりをすることができないことを悟る。知識に精通し、ライティアの肉食系アピールには閉口していたけど、穏やかで達観した人。
「もうすぐ厄災が参ります。私どもは……主をお守りすることが出来ません」
夢の中の私は兵士でも剣士でもなく、男装もしていないただの女の子だった。そして私の感情と裏腹にライティアの言葉を信じて、怯えた。厄災。漫然と伝えられたそのことを私は鼻で笑う。「私」は怯える。
「私」は剣を知らないただの女の子。戦い方を知らない娘。勇気や無謀の欠片もない、平凡な女の子。……そんなの……要らないじゃないか。由緒正しき魔剣の騎士に相応しい者はどこだ?この笑いそうなぐらい甘い夢の世界の、どこだ?
そして。……《《なんで私はライティアと兄上に付き従われているんだ?》》当たり前の疑問が沸き上がる。訝しくなって動作を止めた私をライティアが心配そうにのぞき込む。
その顔が、優しそうだった顔が急に憎悪にゆがむ。場面がいきなり……ヴェーヴィッドでのあの場所に変わり、暴走した魔法が私にぶち当たらんと迫る……。
剣を構えた私はそれを斬ろうとするも、謎の紋章に守られて……そうだ。ライティアはその時、泣き叫んだ。体にあの紋章を刻み込まれるようにして、痛みに、圧倒的存在に、恐怖して。そんなの呪いだ。だれがした?彼か?あの笑いかけたアーノルドという男?何のために?どうして?
騎士のいないモノトリア。王家を守らぬモノトリア。それが夢の世界の中らしかった。違和感は……違和感を感じなかったこと。
そもそも……根本から、夢以前に、トロデーン王家を守る理由が伝わっていないモノトリア家はおかしい。王家の影?それを隠れ蓑にして別の使命があるんじゃないか?ライティアが、ルゼルが、父上が、母上が背負った使命を……私が背負えっこないんだし。知りたいのも仕方ないでしょう、私は……。
私は、どこから来た?
『貴方様をお守りするために、真なる主よ』
優しいライティアが言う。幼く小さい私の頭をなでて、微笑んで。主となぜ彼女は呼ぶの?
『俺の妹、可愛い妹。俺はお前より弱いけどきっと、きっと守ってやるから』
顔も知らない「兄」の、知らないはずの声。穏やかで、すべてを、未来を諦めきった瞳は「私」を見た時だけ煌めいて。
『使命を与えたというのに、そのために力も富もくれてやったというのに、
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