暁 〜小説投稿サイト〜
魔王に直々に滅ぼされた彼女はゾンビ化して世界を救うそうです
第1章『−−彼女が人に何をした』
第1話『小さな魔物』
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見ても何の反応も示さなかった死徒は、『魔族』という単語に反応して突然恐怖を露わにする。

「……ぁ……い……ぇ……!」

 音の出ない喉を無理矢理に震わし、瞳に一滴の涙を浮かべて後ずさる。そんな光景を見るとやはり罪悪感が生まれ、ジークの胸に何かやりきれない感情が出てくる。

「……ぁー、安心しろ。別に襲ったりしねぇから、そう怖がられると悪い事してる気分になる……」

 −−って、これから仕留めなきゃいけない相手に何を言っているんだ俺は。

 一瞬の後悔も虚しく、訂正しようとする前に少女が潰れた喉を開く。

「……ぉ、ん……と?」

 ……もしかしなくても、『本当?』と言いたいのだろう。
 抱いてはいけない筈の罪悪感で胸が詰まる。

「……あぁ、ホント。約束は守る」

 返答すると、少女は安心した様にへたり込んだ。思わず支えようとしかけたジークを、誰が責められようか。これが本当にデルア達討伐隊を返り討ちにした程死徒なのだろうか。とても強そうには見えない。
 先程の自分の軽率な言動を呪う。
 と、なると手段としてはどうしたものか。町から遠くへ誘導、交流が築けるならば説得、懐柔、最悪強制退去。約束を破るのは忍びない為、なるべく最後の手段は取りたくない。

 −−いや待て。

「……こっちの言葉、分かるのか?」

「……ぅ、あ……?」

 こくん、と。
 戸惑いながらも、しっかりと頷く。
 本来、死徒は埋葬された死体に未練ある悪霊が憑き、理性、記憶すら失って発生する種族。脳も腐り落ち、記憶もない為に、文字どころか会話すら不可能。
 故に、この死徒の少女は例外中の例外。

「取り敢えず、要観察か。暫く掛かるな……」

 呟き、頭を掻く。取り敢えずもっと簡単な意思疎通方を見つけたいものだが、それもいつまで掛かるか分からない。場合によっては事情を説明して救援を呼びたい所だが、一度コミュニケーションを築いてしまうとこれ以上怯えさせるのも気が引ける。
 思いの外面倒な仕事になってしまった。
 少し湧いてきた空腹感を満たす為、ポーチの中から握り飯を引っ張り出し、頬張る。欲を言うならもう少し落ち着いた所で食べたいものだが、我儘は言っていられな−−


 ──くぅ。


 可愛らしい音が聞こえた。

「……」

「……ぅ」

 横目で見れば、少女が呆然と自らのお腹に手を当てていた。
 特にアクションを起こす事もなく、今の音の発信源をさすっているらしい。

「……食べるか?」

「……ぁ、ぇ……ぅ」

 こくん、と。もう一度少女が頷く。

 その小さな手に持たせた二つ目の握り飯に光なき目を輝かせ、少女は嬉しそうにそれを頬張った−−。
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