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ソードアート・オンライン〜Another story〜
マザーズ・ロザリオ編
第229話 心の悲鳴
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よ、昔から。大丈夫よ、裕也君は覇気がない所はあるけど、その分安心できるじゃない」

 確かにその部分に関しては、父親の彰三に非があると言える。

 父は以前より身近な人間をあまり顧みない所があったのだ。須郷の開発・経営能力と上昇志向のみを評価し、内部の人間性に。……そして、あろう事か レクトに匿っていたと言える過去事件を起こしている狭山の事に関してもそうだ。人の内面を見る事無く盲目に信じてしまったからこその抜け穴だった。――その事に関しては、父も口に出し、認めている。

 だが、須郷に関しては、以前に増して徐々に攻撃的な性格が強まっていったのは 周囲から与えられる苛烈なプレッシャーに原因の一端があったのだと明日奈はおもえた。

 そして、その圧力の一部に、間違いなく目の前の母親、京子の言葉だって含まれていると確信している。……現に2人ともがそれを感じているのだから。

 横目で見た玲奈は、まだ俯いており 膝の上に乗せていた拳に不自然な力が入っていて、震えているのが見て取れた。何も言えない玲奈に代わって、いや 自分自身の為にも明日奈ははっきりと硬化した声で言った。

「――ともかく、あの人とお付き合いする気は全くないわよ。相手はレイのように自分で選ぶわ」
「いいわよ。あなたに相応しい、立派な人なら誰でも。――ただ」

 ここから先の言葉が、大きな波紋を呼ぶ事になる。結城家始まって以来の大きな、大きな波紋が――。


「言っておきますけど、あんな子―――あんな施設の生徒は含まれませんからね」
「………」

 京子のその言い方に、特定の人物を指し示すような響きを感じて、明日奈は再度慄然とした。

「……まさか……調べたの? 彼のこと……………」

 かすれた声で、呟く明日奈。京子自身は否定も肯定もせず、さらりと会話の方向を逸らした。

「どんな場所でも例外と言うものはあるわ。天才と呼べる人材が現れることだって、確かにある。歴史上でも、珍しい事じゃない。………でも、それは本当に少ないことなの。玲奈のことで、あなたもよく解ってる筈よ。だから、解ってちょうだい。お母さんもお父さんも、あなた達には幸せになってほしいのよ。受験をさせる幼稚園を選ぶ時から、ずっとそれだけを願ってきたの。それに、浩一郎が買ってきたあのゲームに気まぐれで手を出したことを、本当は後悔している筈よ。ほんのちょっと躓いちゃったけど、まだまだじゅうぶん立て直せるわ。いま、真剣に頑張ればね。―――これから、いくらでも輝かしいキャリアを積み重ねられるのよ」
 
 明日奈は唇を紡いだ奥に、みせない様に強く歯を食いしばりながら思った。



 キャリア、キャリアと口にしている母だが、全て母のキャリア(・・・・・・・・)なのだという事が。



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