第一章:大地を見渡すこと 終
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「仁君、そっちの箱持って」
「はいよー」
初めにこの古びれた蔵の中に入ったとき、中は埃と煤にまみれていた。その中にある一つ一つの物が歴史を刻んだ痕を残している。遥か昔、およそ二千年前からのものすらこの中にあるはあるというのだから、緊張しないわけが無い。大学で東洋史を専攻する仁ノ助は、ただ三国志が好きなだけの一般的な学生ではあったが、スポーツで鍛え上げたスリムで引き締まった体が老年の教授の目に偶然とまり、助教授の人と共に荷物運びを手伝わされる羽目となったのだ。助教授は役職の割には若く、三十後半にもなろうかというのに年齢を感じさせない若々しさと砕けた態度が仁ノ助の緊張を解し、教授がいない時だけため口をきいても良いと気を利かせてくれた。
博物館の特別展覧会、「三国時代を語る秘宝」と銘打った展覧会は日本各地の歴史愛好家を中心として大いに繁盛し、これの招致と周知に役を務めた老教授は鼻が高そうにしながら仕事内容を伝えた。曰く、中国本土から持ってきたものは実は余り無いとの事。曰く、日本各地にこれらの展示品を保管している場所があるとの事。曰く、そのうちの数箇所は大学の近辺にあるが小物を多く扱っているから信頼できる人に運搬を任せたいとの事。
「よって、君は助教授と共に手伝ってくれたまえ。君も好きなんだろう?」
上機嫌に言う教授の言葉に乗り、彼は自分の好奇心を十全に満たそうとしながら荷物運搬をし、今最後の蔵の中で作業をしている。
ゆっくりと箱を積み上げられた箱の上に置く。ここまでの作業は神経を磨り減らすような事が作業の割にはなく、体力は未だ残ったままである。
「おし・・・・・・これでおしまい、と。手伝いありがとうね、仁君」
「いえいえ、こっちも楽しませていただきました。」
互いの労をねぎらって笑顔を浮かべて言葉を述べる。
「んじゃ僕はトラックを返しにいくけど、君はどうする?ここからだと家には近いんでしょ?だったらこのまま帰ってもいいんだよ?」
「本当ですか?それじゃお言葉に甘えちゃおうかな。有難う御座います」
意外にももたらされた言葉に驚き、そして助教授の心遣いに甘える形でそれに応えた。
今日は久々に良い日となったなぁ、明日から祝日を挟んだ三連休だしゆっくりしようかなぁ。
彼は明日から始まる連休に胸を躍らせて蔵の外へと出る。まだ時間は午後4時を回ったあたりである。よく晴れた日差しは夕焼け前にも関わらず強く輝いている。
「あ、ちょっと待って」
助教授がトラックの運転席のドアに手をつけたときに、何か思い出したのか素早く蔵の脇に駆け寄って何かを探っている。そして見つけたそれを両手で持って仁ノ助の方へ歩み寄った。小さい年代物の木箱であり、B5サイズほどの大きさをしている。
「これな
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