第一章:大地を見渡すこと 終
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呼び止められる。一昨日に使い捨ての刀を寄付した兵だ。両者は馬を立ち止まらせて彼の方をみる。
「もういくのか」
「えぇ、長居ができぬ理由ができました故」
「そうか。ならば引き止めんが、二人とも、くれぐれも気をつけろよ。特に最近は何やらきな臭い動きが続いているからな」
「ご忠告痛み入ります。もし再びこの町に来ましたら、その時は共に盃を交わしましょう」
「お世話になりました。またいずれお会いしましょう」
「あぁ、達者でな。元気でやれよ!」
衛兵と言葉を交わして有難いことに激励まで受けた二人は笑顔と共に別れの礼をする。金毘がぶるると震えて嘶く。そして二日間世話になった町の外へと目を向けて馬を歩ませていく。門を過ぎようとするあたりで詩花から声がかかった。
「ねぇ、折角だからあんたの馬を走らせてみない?」
「それって、競争しようっていうことか?」
彼の返しににやりと笑い、彼女は手綱を強く打って地の先へと駆けていく。
「おい詩花!ずるいぞ!」
仁ノ助は叫びながら急いで自分の馬を走らせていく。その様子を門から見ていた衛兵が苦笑いで送っていった。
彼女は本気で走ろうとはしなかったのだろう、五町|《≒550メートル》ばかり馬を走らせて並走の形をとった。彼女の方を見遣ると、今までの一人旅の孤独が吹き飛んだかのように清々しい笑みが顔に満ちていた。
仁ノ助はそれを一瞬見つめて再び前を見る。中原の空は未だ平和をたたえているが、その下の大地はすぐに血で赤く染まることだろう。日の出の光を受けてまばゆく光り始める西の空に一羽の鳥が飛んでいくのがみえる。そして彼は馬上からその下に広がる雄大な大地を見渡した。彼の胸にはこれからの戦乱に対する不安と、群雄達の活躍を間近で見れる興奮がない交ぜとなっていた。
第一章:大地を見渡すこと 完
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