第一章:大地を見渡すこと 終
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んですか?」
「教授がさぁ、これどこから借りてきたのかわからないっていってさぁ。んで片っ端から帳簿を調べたんだけど、これに関する情報がどこからも見つからなくてね。もしかしたら何か別の資料が紛れ込んだのかなって」
そこまでいうと溜息交じりの言葉を紡ぎ始める。
「現地でもう一回帳簿調べながら作業して来いっていって調べなおしたんだけど、やっぱりなくてね。完全に別物の資料みたい」
「それで、どうするんですかこれ」
「教授がいうに、探すまでに時間がかかりそうだからそれまではこちらが保管していてもいいだろうって。んでその管理を僕が担ったんだよね」
「ほー・・・。んじゃ態々自分に向かってこれを差し出してるってことは?」
にやりと笑う助教授、悪戯を思いついた顔をしている。
「本当は絶対駄目だけどさ、この連休の間だけならこれ君に貸してもいいよ」
「マジですか!?あ、あの、中身をみてもいいんですよね!?」
「どうぞどうぞ。ただし絶対に傷はつけないでよね。あ、ここで開けてもいいよ」
その言葉に乗じて仁ノ助は自分の興奮を殺しながら慎重に箱のふたをあける。
中に入っていたのは、祭礼用のものであろうか、額縁が厳かな印象をたたえている、一枚の鏡であった。
「ふあぁぁ・・・・・・」
随分と懐かしい夢を見た。彼が最後に日本に居た日の出来事、この大陸に足を踏み入れた最初の日の出来事であった。
(あの後自宅で鏡を持ちながら陶酔していたら、急に光に包まれてこの大陸にいたんだよな)
まどろむ頭の中で若き日の自分を思い出す。まだあの頃は全ての人間に一途な希望を抱いていたんだ。裏切りをされてもすぐに許してしまうお人よしだったことが懐かしい。
徐々に眠気が醒めてきて視界がはっきりする。一度眠りから醒めてしまうとすぐに眠気が雲散霧消する癖がついているのは、二度寝している間に敵の刃にかかって死んだ友人を思い出したからだ。痛みは無かったであろうが、抵抗も出来ずに死んでしまったことがさぞ無念であったろう。彼のようにならないためにこの癖を意識して作ろうとした結果が今のそれだった。
まだ鶏が鳴く時間でもない。思わぬくらい随分と朝早くに目が覚めてしまったらしい。窓から差す光は部屋の中を夜明けの赤が僅かに色をつけている。目の焦点を合わせて視覚になんら支障がないことを確認すると、わずかに臭覚を刺激する甘い香りを認識してそれが漂う方向へ頭を向けた。詩花がぐっすりとなぜか向かい合う形で眠っている。ご丁寧に、一見すると抱き合って眠っているかのようだ。彼女の健やかな眠りは安寧をたたえており、まだ一刻は目覚めそうも無い。早起きは三文の徳というが、彼女の寝顔をしわが数えられるくらいに近くで見られることは三両の得といったところである。
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