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剣士さんとドラクエ[
55話 古代船2
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引く家系で、尚且つ「モノトリア」の血を絶やさないようにしているんであって、トロデーン王家の血を引く家系じゃないんだ。

 普通、貴族って王家の血を引くことによって力をつけようとするけど、そんなことを一切しないし、それは存在目的に全く関係ないから、例え子供と年齢が近くても申し込まないらしいし。だから、私にも義父上にも義母上にも王家の血は一切流れていない。

 「トロデーンの影」ではあるし、「トロデーン王家の騎士」でもあるから、「トロデーン王家の影」って言われるけど……よくある安っぽい小説の設定みたいに実は王位継承権が……とか、ないから。トロデーン王家の影だから歌えって……意味がわからない。

「……ボクが歌うのか……」

 でも、目を逸らさないイシュマウリさんに、負けた。真摯な目だったから。それに、沈黙していても仕方がなかったし……あと、みんなからの視線が痛かったから。うん、さっさとするからこっち見ないで。

 にしても……この、変声チョーカー外さなくていいよね?それは断固拒否、だよ。……声を強制的に低くしてて歌えるかなあ……。

 焦る私を構わずイシュマウリさんも、姫様も美しい音楽を奏で始めてしまった。……ええい、腹をくくるよ!下手くそでも音程を外しても知らないからな!

 どうにでもなれとばかりに、メロディーに合わせて、昔トロデーンで聴いた姫様の声を思い出し、そのアルトパートになるように歌う。ソプラノはチョーカーを外さないと無理だったから早々に諦める。無理に高音を出そうとすると声、掠れるし。

 思いの外、およそ十八年ぶりの歌は……まぁ、素人にしては良かったんじゃないかな。その程度だった。当たり前だけど姫様とは比べものにならない。恥ずかしい、いっそ穴に潜りたい……。

 でも、それより……歌う事に胸の内から、無理矢理押し込めていた何かが解放されていく感覚が気になった。その、押し込めていた何かの正体も分からないけど……明らかにそれが解放される度に海はより一層本物の様に煌めき、船がゆっくりと浮上していくんだ。……ということは私も貢献したってこと?

「……海が」

 私達は完全に浮かび上がった船に見とれた。イシュマウリさんがハープを掻き鳴らすと、光の階段が私達を誘う。体が浮力によって浮かび上がった。……全部幻影なのに不思議だなぁ。

 そっと水をかき、泳いで階段へ向かう私達を見て微笑んだイシュマウリさんは、光の粒となって、融けるように姿を消していった……。……なんとなく、もう会えないような気がする……。

 ……さあ、出航の時が来たようだ。半ば呆然としたようなエルトを舵の所に連れていくと、私は地図を広げ、星を見るために上を向いた。
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