宇宙編
月決戦編
第33話 宇宙の念
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つくように硬い。
なんとか手を伸ばし、予備のヘルメットと拳銃を手に取る。
「ぅゲホッ…カァ…はぁ…」
アイラは迷わず、コックピットを開けた。
真空の闇に飛び出し、目の前の機体のコックピットにすがる。
「開けて、あなたを殺しはしない。安全は保証するわ…」
ゆっくりと開いたコックピットの向こうには、自分と同じ歳くらいの少女が鮮血の中で佇んでいた。
「大丈夫…ゆっくりこっちに…」
アイラが手を差し伸べた瞬間だった。
「??」
シートを蹴り、アイラの胸に飛び込んできたナナ。その替えたばかりのバイザーは、既に赤黒く染まっている。
「え?」
「お…前は…敵……だ。テロ…リ……ストだ…お前ら…か…ら私が…守る…」
そう言って、手にした拳銃をゆっくりと上げる。
楽になれる
“それ“を撃てば
「やめてぇ??」
真空によって遮られた銃声。
一瞬なにが起こったのか、アイラにはわからなかった。
ヘルメットを覆う赤い膜。
これは血?
「あぁぁ」
両手、体を鮮血が包み、流れていく拳銃を手に取る。
「え?嘘だよ……」
目の前にあるのは、まるで赤黒い絵の具が塗りたくられた人形のような死体だった。
「嘘よ…嘘……嘘嘘嘘????」
ナナは、自らの頭を拳銃で撃った。
「どうして…なんで…ぁぁ…」
心を貫く痛みが消えない。
傷は無いのに、胸が苦しい。
「はぁ…はあ、は…はは…あはぁぁァハハ??」
アイラは手にした拳銃を、目の前にある死体に向け、放った。
全弾放ち尽くした。
「あははははは??ァハ??死んだの?強化人間のくせに、死ぬわけ無いわよね??嘘でしょ??」
空の引き金を何度も引くアイラ。
ナナは壊れた。最後の最後、その小さな体に溜め込んできた闇を、抑えきれなかった。
一発の弾丸に込めたその闇は深く、アイラの心までも蝕んだ。
ナナは楽になりたかった、ただそれだけ。
自分が今まで貫いた信念、特別な感情を抱いた人間、それらを守るための力。
それら全てと、アイラとの戦闘に感じた奇妙な暖かさ。
全てがナナにとって苦痛になった。
感情に押し潰されたナナは、自分の価値を見失った。
ただ、最期に想ったのは、自分のことを愛してくれた人達への感謝の念。
彼女の心は、宇宙の念、宇宙を駆ける念となって、闇に溶けた。
宇宙世紀0091
11月30日
月外周宙域にて、ナナ・リーブルズー死亡ー
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