1話 「彼」
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「トウカ、ちょっと待ってよ!」
「はははは、これから念願の兵士になるのにボク如きについてこれなきゃいけないな!」
ふはははははと可笑しな笑い声を上げながら徐々に遠ざかっていく、僕の親友、僕と同じく新兵のトウカ。
トウカの言うとおり今日は僕らのトロデーン兵入隊式だ。でも同年代でもぶっちぎりに体力馬鹿で身体能力がこれまたぶっちぎりに高いトウカに足の速さで勝てというのは凄い無茶ぶりじゃないのかとは思う。僕は決して身体能力が悪くはないはずだけど、彼と比べると誰もが負けていると言うだろう、まぁ……お察しな身体の力しか無いんだ。
「ちょっと待ってよーー」
「やだねっ!」
たったの一瞬だけ振り返ってキラッと黒色の左目を輝かせたトウカは更にぐんぐん遠ざかっていく。早くに出たんだから、別に普通に歩いても絶対に遅刻でも何でもないのになんで僕らは大衆の場で徒競走をしなくちゃならないの……。
「そこはノリだよ!」
「考えていること分かってるのっ?!」
「長年の付き合いさぁ!ふはは!」
ぜいぜいと息を切らして走る僕と散歩でもしているかのように涼しい顔をしたトウカを、道行く人々は微笑ましいような生暖かいものでもみたようなような目で見てきた。とっても恥ずかしい。しかもその大半が顔見知りという…………。ああ、これは後でからかわれるな……。
「着いたよ!」
にぱっと輝かしい笑顔のトウカが少し憎たらしい。頭半分程身長が低いトウカが実に憎たらしい。今まで僕よりも短髪だった髪を何故伸ばし始めたのかは知らないけど、伸びかけの髪の毛を風になびかせてどや顔をするトウカが憎たらしい。
この前、大事なことは三回言うべきだとトウカが言っていたっけ……ああ現実逃避。今すぐにでも地面に突っ伏したい。そうするわけにはいかないのは勿論分かっているけど……。
「ここが宿舎かぁ」
「……新しい家か」
「ボクは家から通うけどね」
「トウカは家が近いからなぁ」
ようやく息が調ってきた僕はトウカと軽口を叩きながら取り敢えず宿舎に入る。トウカは暇なのかここに来なくてもいいのに付いて来た。ここに彼は用がないから。
その、親友のトウカ。この宿舎は王城の一部にあるわけだけど、彼に必要がないのは城のすぐそばに住んでいるから。それも城下町の中の貴族町の、一番立地の良いところで。どんと他の貴族の邸宅を霞ませるほど大きな家に住んでいる。何度招かれて行っても決して慣れることはない所。
つまりトウカはお偉い貴族様の息子。……いや、お偉いどころじゃ済まなくて、世界でも一番って言っていいぐらい偉いところの。
彼の名前はトウカ・モノトリア。
世界に轟く名家にして、古代人の末裔の一族と呼ばれる貴族の……一人息子。
こんな
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