0話 覚醒
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上は私を奪い、ぎゅっと抱き締めた。豊満な義母上の体に圧迫されて軽く死にそうになった……。
「女の子に何てことを!可哀想に、可愛いわたくしのトウカが男の子の格好をしなくてはいけなくなったのですよ!それならば今だけでもそんながさつな扱いをするのはおよしになって!」
「……ぎゅむ……」
義母上は優しいから言っているけれど、多分何もなくたって私はこうして男装していたのだから、関係ないのだけど。でも今は安らぎを感じていたいから何も言わない。男装して身を守らないとどうなるのは分かっているから。分かってしまったんだもの。あの狂気の少女だけじゃないはずだ、私という未完成のモノトリアを狙う存在は。
「お、俺だってトウカにそんな格好をさせたかなかったが、変な虫がついたらどうする!それにだな……」
「だからってトウカは女の子ですよ!事実を曲げても変わらないのに!」
「母さん、もうよして……」
「いいえ、白黒つけさせて頂きますわ」
もうどうにでもなれ。義母上のご意向のままに、だ。しかし、この話は終わることはない。私が決まって「十八歳になれば女の格好をします」と言って、喜んだ義母上にふりふりの義母上手製の……残念ながら似合わない格好をさせられて終わるというのがセオリーなのだから。
でも、この時は先ほどまでの覚悟はどこへやら。私は義母上の腕の中でぼんやりしていた。
ゆっくりと噛み締めて感じられるとても温かいこの場所。
私は、恵まれている。そう感じられるんだ。
例えこの体の右目が見えなくても。首に消えないほど大きな傷があろうとも。私は恵まれていた。だから、外の不幸な人達のことを知らなかったから。まだ私は薄く微笑んでいられたのだ。私は本当の父と母をどんな人なのか知らないが、今、迎えてくれる家族がいるんだ。
だけどこの後、知り合うことになった親友には両親や向かえ入れてくれてくれる人すら居なかったのだ。
それを知ってしまってから私は苦しむ人に手をさしのべる。それが偽善でもいいから。貴族の戯れだと蔑まれてもいいから。剣を取った日から狂ったように魔物を狩り続けたのは苦しむ人が減るようにだ。
今日は綺麗な、優しい春の風が吹いた。涙すら捨てた私には勿体無いほど穏やかな春の陽だまりが、義母上の温まりが私を守っていた。
・・・・
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