0話 覚醒
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。どんどん意識が遠退いていくような感覚もある。懐かしい香りが遠のいていく。閉じた目蓋から涙がなぜか、止まらない。聞こえるくぐもった声から遠ざかるのが嫌でしょうがない。この人達のもとに居たくてたまらないんだ、何故か。
「私の娘……」
「どうか健やかに……」
聞こえる声はそこだけ、理解した。私は、この人達の娘だと。この人達こそ、本当の父や母なのかもしれない。ああ、「桃華」と名付けた両親が嘘だとは思えないのだけど、この人達も本物だと思うのだ。
遠のく意識。
そして、いくらかして、また目覚めた。
私は所謂捨て子として誰かの家に拾われていた。それを知ったのはぼんやりと日々を過ごす中、意識が珍しくはっきりしているときに聞いたからだ。
その場所は覚えていないが、確か赤い壁紙の広い部屋で、二人の男と二人の女と小さな少女が私の前にいた。大人二人はなぜだか口々に私のことを誉めていたが、その二人の間にいた少女が赤ん坊の私を見て、嫌味に笑いながら言ったのだ、一言「捨て子め」と。慌てた男女と怒り狂った今の「義理の」両親の声を覚えている。
突如少女に突き立てられた刃の痛みと狂った少女の声も鮮明に。嗚呼、義理の両親と分かるのはもっと後だっけ?そこは覚えていない。何故私が刺されたのかは明白、捨て子の私が少女の許婚の居場所に取って代わって養子になったから。……これも後に知るんだっけ?女の私が少女と結婚することはない。だから怒ったんだろう、というのが私の勝手な予想だ。本当の少女の許婚になるべきだった子は生まれてすぐに死んでしまった、と後で聞いた。「ルゼル」と名付けられた私の義兄上のことだ。だから身寄りのない私を養子にした。何故私にしたのかはまあ、後で知ったな。
……少女はわずか五歳にして人を刺した上に貴族の本家を養子とはいえ殺しかけたために縁切りされ、分家は名前を取り上げられたと言われた。これも後で知ること。
ともかく、私は男装する。このことで知ってしまったのだ。女であっては侮られる。そういう世界だからだ。私が生まれたのは。男装することは女らしくなかった私は何も辛くない。性格すら女らしくなく、妙に現実を見据えていると言われたこの可愛げのないものが役に立った。
女のままで侮られて、そして私がまた殺されかけたら駄目だ。死ぬ気はないけど、もしも、ということがある。
私は男よりも力も剣も強くなろう。そうすれば私の性別を疑わなくなるだろうから。それが、今の両親たちへ出来る恩返しだから。 私は、温かく平和な世界しか知らない。あの両親が何を思って私を捨てたかは知らないけれど……路地裏で浮浪児として生きていくのは無理だ。恩返しをしなくては。
・・・・
幾年かの月日はあっという間に経つ。軟弱で弱
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