0話 覚醒
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「ばいばい」
「また明日ね!」
何時もどおりの挨拶をかわして、さっさと帰路につく。ここからは友達はみんな私と道が違うんだ。少し寂しさを感じながら何時も通りを歩く。普段から女の子らしく無く、昔から人生を傍観気味な私には珍しいこと。一抹の寂しさを胸にこの辺りではやや広い道を車通りが少ないからという安直な考えで真ん中をてくてくと歩く。
手に握って無残にもしわくちゃになっていた数学のプリントをシワを伸ばしつつ開けば見慣れた私の字で名前。右上がりの特徴的な時で遠藤桃華。勿論私の名前だ。桃香でも藤花でもなく、華やかな桃と書く「とうか」だ。由来は桃の花のような優しい子になってほしいことと華やかに咲いてほしいことの混合らしい。ちょっと意味がわからないけど、その話をするお父さんやお母さんはなんだか怖いからそれ以上は聞かないことにしていた。私の名前の話をする両親は操られているみたいな怖い目になるんだ。
私はめんどくさい数式がいっぱい載ったプリントを見ながら左に右にフラフラと歩いていた。この後私は後悔する。いくら車通りが少なくたってあまりにも無防備だったのが悪かったことを。もっと気をつけておくべきだと。
プリントを開いて数メートル歩いた後、私は「また明日」という言葉を守ること無く、要するに明日を迎える間もなく即死したのだ。死因は自動車事故。トラックの運転手の居眠りによる衝突だった。私は恐らく、ミンチかバラバラになったことだろう。覚えているのは体が砕け散るように激しい衝撃、暗転する視界だけ。
そこからの記憶は勿論ない。だから私は自分の無残な死体も、自分の葬式も見ずに済んだのだ。哀しむであろう両親も、「またね」を叶えられなかった友人のその後も。
死ぬ瞬間、私はどこかへ吸い込まれていくような感覚を覚えた。どこか懐かしいところへと向かうような、懐古すら湧いた。
・・・・
「あなた……」
「分かってるさ」
どこからか、妙にくぐもった声が聞こえる。いや、聞こえにくいのは私の耳のほうらしい。頼りの目は開けない。否、開けられない。酷く疲れた時のように目蓋が開いてはくれない。
ここは、どこなんだろう?
「ここにいれば、少しの間はこの子は幸せだけど……」
「そうだ。幸せだがここは危険だ」
触覚は大丈夫だ。ふわふわとした柔らかい何かに体が包まれている。それは大好きなマシュマロのよう。何だろう……これは。どこか世界が夢うつつに感じる。まさか明晰夢なのだろうか。記憶に靄がかかったみたいで、ぼんやりする。少し前のことが思い出せない。
「難しい術ね……でもやり遂げないと」
「三つも行うのは難しいが、うかうかしているとこの子が」
ああ、くらくらする。拍車をかけて頭がぼんやりする
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