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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十話 美しい夢
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致しただけだ」
「……確かにそうですが」
声を出すのがやっとだな。
「そうなれば、ブラウンシュバイク公爵家は安泰だ。いや、リッテンハイム侯もリヒテンラーデ侯も新しいブラウンシュバイク公を味方につけようと必死だろう」
「……」
「妻は皇族、夫は軍の実力者。しかも皇位継承には関係ない。これほど安心出来、頼りになる味方は他におるまい」
「しかし、そうなりましょうか」
体制を立て直したボルテックが問いかけてくる。そうだ何が訊きたい?
「わからんな。ブラウンシュバイク公次第だろう」
「……ミューゼル大将はいかがです。いずれローエングラム伯爵家を継ぐといわれています。彼なら貴族ですし周囲の反発も少ないのでは有りませんか?」
やはりそこにいくか。悪くは無いが今ひとつだな。
「貴族といっても帝国騎士であろう、爵位も無いものを門閥貴族どもが認めると思うのか?」
「……」
「いっそ平民のほうがよいのだ。実力は誰もが認めている。ヴァレンシュタイン中将の実力はミューゼル大将よりも上だろう。周囲には実力で選んだと言えば良い。それで嫌なら、離れていくだろう。そのほうがブラウンシュバイク公爵家としても頼りにならんものが減る、そうではないか?」
「確かに……」
「さてブラウンシュバイク公はどう出るかな。もしヴァレンシュタイン中将を婿に取るなら内乱は回避されるかも知れんが」
「? リッテンハイム侯とリヒテンラーデ侯の間で争いにはなりませんか?」
不審そうにボルテックが尋ねてくる。いいぞ、その調子だ。
「回避する手段が有るとしたらどうだ」
「回避する手段?」
「エルウィン・ヨーゼフとサビーネ・フォン・リッテンハイムの結婚だ」
「!」
「皇帝は無理だが、皇后にしてやるというのだ、悪い話では有るまい」
「……」
「エリザベートは結婚しているのだ。帝国一の姫君と言えばサビーネしかおるまい。皇后の座をめぐって両家が争う事は無いのだ。歳は多少花嫁が上だが、政略結婚なのだ、不可能ではない」
「確かにそうですが」
ボルテックは汗をかいている。そんなに驚くな。
「そうなれば、リヒテンラーデ侯も失脚せずに済むであろう。エルウィン・ヨーゼフの後見人として国務尚書の地位にあっても不思議ではない」
「リッテンハイム侯が権力を独占しようとは考えませんか?」
「新しいブラウンシュバイク公がリッテンハイム侯の突出を止めるであろうな。ブラウンシュバイク公は軍を代表しているのだ。皇帝が幼い以上、経験のあるリヒテンラーデ侯の安定した政治力が外征の前提条件になる。そうは思わんか?」
「……確かに、その通りです。自治領主閣下の先見の明には驚きました」
「世辞は良い。実現しない可能性の方が高いのだ。所詮は夢であろうな」
夢だろうと思う。
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