第3章 リーザス陥落
第85話 決戦・ヘルマン第3軍
[8/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
、その通りだった。……全くを持って、間違っていない。もっともっと、注意しておくべきだった。……でも、それも今更後の祭りだ。
だが、目の前の最強の黒騎士、トーマは全く違った。
「皇子には、皇子の器がある。……人を惹く、小さからぬ器だ。儂はそう思う。……今はただ、眠っているだけだ。それを呼び起こす為、……儂は残りの命を使う。初めからそれが仕事と心得ておる」
『残りの命を使う』
その言葉を訊いた途端、ハンティは目の前が暗くなる気がした。いや、間違いなく暗い。闇が多っている。長らく生きているがゆえに、何度も味わってきた。
――出会い、そして……別離。
「……死ぬの。トーマ。パリエナみたいに……、あたしの前から……、また、ひとり……」
――……時代の流れにのって、ただ前に進め。……立ち止まらず、只管……。
極近しい言葉。あの言葉を胸に、進もうと決めていた。
だけど、それも揺らいでしまう。
思い出深い、パットンの実母の名。
それを出され、トーマは僅かに、目を伏せ……、直ぐに不敵に目を見開いた。
「ふふふふ……ワッハッハッハッハッハ!! 儂は、トーマ・リプトンだぞ。殺せる奴なんぞ、そうはおらんわ」
豪快な笑い声。戦場である事すら忘れてしまいそうだ。
「……まったく、あんたも 因業だね」
もう止められない。
そう思ったからこそ、ハンティも薄く笑った。そして、知らぬうちに曇っていた心が、綺麗に払われたような気分だった。
「さあ、小細工や、後方からの指揮は終わりだ。……次世代の力、この身で味わうとしようか。だが、そう簡単に超えさせんぞ。ヘルマンの騎士の強さを、心ゆくまで披露してくれるわ」
トーマの言葉に、ハンティも軽く頷いた。
――……敵側に、以前トーマに話した男がいる。おそらく、間違いない。
ハンティが最初に言った言葉ではあるが、それを話す前から、トーマもなにかを感じていたのだろう。疑いようが無かった様だ。
「パットンに伝言は?」
「不要。己で己の道を掴まねば、それを歩いていく事などできん。あった事だけを伝えてくれ」
「……ヒューには? 自分の息子のこと、忘れてない?」
「あれも子供ではない。儂の道を模倣する必要もない」
息子へ残す最後の言葉になるかもしれないと言うのに、トーマは短くそう答えるだけだ。
更に、先程までは見えなかった、曇っていた心だったが為、見えなかった。トーマのその表情は、年甲斐もなく、期待に胸を躍らせているのだ。……それがよく判った。
「ったく………不器用な親父だよ、あんたは」
「ワッハッハッハッハ!」
再び大笑いして、トーマは空を見上げた。
「ヘルマンの曇り空とは、まったく
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ