―女の話―
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「お前は……!」
タッグデュエル会場から出て行ったレイを探しに出た俺が見つけたのは、黒いサングラスの男――ミスターT。人間らしくない不気味な笑みを浮かべながら、ミスターTはこちらを見てニヤリと笑う。
「やあ遊矢くん。だが、今の君に私に構っている暇はないと思うが……」
油断なくデュエルディスクを構えるこちらを相手に、ミスターTは不遜な態度を崩すことはなく。その含むような言い方から、俺の脳裏には一人の人物が浮かび上がった。
「レイを、どうした……!」
「だから言っているだろう? 私に構っている暇はない、と」
レイに何をしたのか。ニタリと笑みを深めていくミスターTに、このまま殴りかかりたくなる衝動に駆られるが、そんなものは奴には無意味だろう。レイをすぐさま探しに行きたいところだが、目の前にいるこの敵を放っておく訳にはいかない。
「――遊矢!」
ならば速攻で倒すのみ、と慌てたままにデュエルディスクを構えた瞬間、背後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。もはや数も少なくなった真紅の制服――十代だ。
「ここは任せろ」
制服と同じ真紅のデュエルディスクを構えながら、疾走してきた十代が俺とミスターTの間に割って入る。それを見たミスターTが珍しく表情を歪め、一考したものの俺は決断を下す。
「頼む!」
背格好や口調が変わっても十代は十代だと。そう確信しながら、俺はレイを探すべく走り回った。どこまでも広がるこのアカデミアの森、レイがよくいた場所は――
「……十代?」
――十代を追いかけていた明日香だったが、気がつけば十代の姿はどこにもなく。一瞬で森の中に消え去ってしまったような感覚に、明日香は不気味に感じて歩を止める。辺りを見回しても遊矢に十代どころか、一般生徒の気配すら感じることは出来なかった。
「ここは……」
だが、この場所には見覚えがあった。かつてアカデミアが平和だった時、ここには明日香も幾度となく足を運んでいたことがある。アカデミアの森の中にある池、ここは……
「……遊矢様のお気に入りの場所、だよね」
「レイ……ちゃん……?」
今まで気配すらなかったにもかかわらず、何処かから突如としてレイが出現する。比喩表現でも何でもなく、本当に何もない空間から現れた――ような。
「ボクも行きたかったなぁ……遊矢様と一緒に、ここに」
遊矢がよく釣りをする時に座っていた場所に、レイは儚げに体育座りの体勢で座り込む。愛おしげによく座れそうな岩を撫でる姿は、まさしく早乙女レイそのものだったが――明日香はどこか、違和感を感じざるを得なかった。目の前にいる彼女は早乙女レイではないと、脳内のどこかがけたたましく警鐘を鳴らす。
「レイちゃん……なの?」
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