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美食
7部分:第七章
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第七章

「それでね」
「食べたかったんですか?猫を」
「いや、猫は別に」
 いいというのだった。
「犬にしろね。ただ」
「ただ?」
「虎を食べたかったな」
 また随分と派手な動物を話に出すのだった。
「虎をね」
「トラはメニューになかったですよ」
「稀少になってきている動物だから流石にないか」
「ええ、そういうのは流石に」
「だろうね」
「それにしてもどうしてなんですか?」
 今度は利樹の方から彼に問うてきた。
「虎を食べてみたいなんて」
「始皇帝の話を聞いてね」
「始皇帝のですか」
 言わずと知れた秦の始皇帝である。この人物が歴史に残した功績も悪名もかなりのものである。どちらにしても強烈な個性を持っていた人物なのは間違いない。
「うん、毎日虎を食べていたらしくてね」
「やっぱり身体にいいからですかね」
「そうらしいけれどね。ただあの人は」
「ああ、あれですよね」
 利樹も彼が何を言うのかすぐに察した。
「水銀を飲んでいて」
「そのせいで死んだらしいからね」
「そうですね、確か」
 昔は仙術や道術によく使われていたのである。薬に入れられていたのだ。その中毒で多くの人物が死んでいるが始皇帝もそのうちの一人だったのである。
 彼等もそれを知っていて。それで話をしているのであった。
「勿論美食倶楽部では水銀は出ませんよ」
「当然だね」
 彼もそれはわかっていた。
「そんなものを出したらそれこそ」
「医食同源じゃなくなりますよ」
「そうだよな。じゃあ完全に」
「そうですよ。身体にいい美食ですよ」
 まさにそれだというのだ。
「だから犬だって」
「しかし。本当に色々あるんだな」
 彼も話を聞いて思うのだった。
「色々な料理が」
「ええ、その通りですよ」
「よし、じゃあ」
 ここまで話を聞いてだった。彼も決めた。
「行くつもりはなかったけれど」
「行くんですね」
「ああ、そうさせてもらうよ」
 こう答えるのだった。
「そうするよ。それじゃあ今度は」
「行きましょう」
 利樹は笑顔で応えた。こうして二人で行くことになった。そしてその二人で行った時にだった。
 店には既に何人か客がいた。誰もがそれぞれの料理を食べている。見ればどれも一見すれば非常に変わったグロテスクなものばかりであった。
「あれは」
「蛙ですね」
 それを食べている客もいるのだった。
「ウシガエルの丸焼きですね」
「蛙を丸焼きにして食べるのかい」
「それは普通じゃないんですか?」
 こう彼に返す利樹だった。
「蛙を食べるのか」
「いや、蛙を食べること自体も」
 結構なゲテモノだと。彼は主張した。
「滅多にないことじゃないか」
「そうですかね」
「そうですかねって」
「この
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