巻ノ三十七 上杉景勝その二
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「鼻が折れてしまうので」
「だからですか」
「はい、ですから」
「謙虚であられますか」
「そうありたいと思っています」
「左様ですか」
「低く持てば多くのものが見えると言われました」
こうも言うのだった。
「父上に」
「低くですか」
「己の腰を」
「謙虚になればですか」
「そして多くのものを学べるとです」
「成程、そう教えられたのですか」
「そうです、ですから謙虚である様にしています」
これが幸村の考えである、それを今兼続に言うのだ。
「ふんぞり返っていてはかえって周りが見えぬものなので」
「そうですか、それがしもです」
「直江殿も」
「謙虚でありたいと思っています」
「常にですか」
「はい、確かにふんぞり返ってはです」
幸村の言う様にというのだ。
「上しか見えずしかもその上もです」
「広くは見えませぬな」
「はい、常にそうしていては」
「それがしもそう思います」
「ですな、その謙虚さがです」
「それがですか」
「真田殿をさらに大きくされましょう」
兼続は微笑み幸村に話した。
「そしてこれからも多くの方を知ることになるでしょう」
「これからもですか」
「そう思いまする、そしてやがては」
兼続は幸村にさらに言った。
「天下に知られた方になるでしょう」
「それがしがですか」
「それがしはそう思いまする」
「そうなりますか」
「そう思います、それでは」
「はい、これより」
「家臣の方々のところに戻り」
そうしてというのだ。
「お屋敷にも」
「戻りですな」
「学問と鍛錬に励まれて下さい」
「それでは」
「書は何でもお求め下さい」
兼続は微笑み幸村にこうも話した。
「当家にも書はありますので」
「だからですか」
「謙信様は書もお好きでして」
彼の頃からというのだ。
「多くの蔵書があります」
「ではその書を」
「好きなだけお読み下さい」
兼続は幸村に言った。
「望まれるだけ」
「どの様な書も」
「はい」
幸村も答えた。
「それではお言葉に甘えまして」
「この城から出ることは自由ではありませんが」
それでもというのだ。
「書と鍛錬はです」
「自由ですね」
「好きなだけお励み下さい」
兼続は幸村にこのことは約束した、そして。
幸村は十勇士達のところに戻った、彼等は丁度あれこれと談笑していたが主が部屋に入って来てだった。
その談笑を止めてだ、主に向き直ってそれぞれ言った。
「殿、お戻りですか」
「それでは」
「うむ、戻ろうぞ」
彼等が春日山城の中に用意された屋敷にというのだ。
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