巻ノ三十七 上杉景勝その一
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巻ノ三十七 上杉景勝
幸村は兼続に案内され部屋に入った、部屋の左右にはそれぞれ黒い服の男達が並んで座っていた。皆上杉家の重臣達だ。
兼続は彼等の間を進み幸村も従う、そして。
その部屋の奥、上座にいる男の前に来た。男は髷を結っていて頭は月代に剃っている。小柄であるがその気は異様なまでに大きい。
顔立ちは整っており口髭と顎鬚が繋がっている、そして眉を顰めさせこれ以上はないまでに不機嫌な感じだ。
その彼の前に出て座ってだ、二人は再び頭を下げた。
「直江兼続参りました」
「うむ」
男は静かにだ、兼続に応えた。
「よく参った」
「この度当家へのお客人を紹介に参りました」
「真田源四郎幸村です」
幸村は顔を上げてから名乗った。
「上杉家の厄介になります」
「わかった」
男は幸村にも答えた、一言で。
「上杉家の当主上杉景勝である」
「はい」
「以後宜しく頼む。ではな」
ここまで話してだ。そしてだった。
男、上杉景勝は席を立ってだ、場にいる一同に告げた。
「これまでとする」
「はっ」
兼続も他の重臣達も応える、こうしてだった。
話は終わった、景勝は場を後にし家臣達もその場から帰った。そして。
幸村も兼続に案内されて外に出た、そのうえで。
屋敷の廊下を進みつつだ、彼は幸村に言った。
「殿は無口な方ですが」
「はい、わかります」
幸村は兼続にはっきりとした声で答えた。
「そのお言葉の中には」
「多くのものを含められています」
「そうした方ですな」
「だからです」
「お言葉が少なくとも」
「我等はわかります」
「左様ですな」
幸村は兼続の言葉に頷いた。
「それがしも少しだけですか」
「おわかりになられましたな」
「少しですが」
「それは何よりです」
兼続は微笑み幸村に答えた。
「では以後殿を御覧になって下さい」
「そうさせて頂いて宜しいでしょうか」
「是非」
「そうですか、それに」
「それにとは」
「それがしを客人と言われましたが」
「その通りだからです」
兼続は微笑んで幸村に答えた。
「源四郎殿は人質ではありませぬ」
「だからですか」
「殿もそうお考えです」
「だからですか」
「それがしもこう申し上げました」
「そうでしたか」
「そのことは心配無用です」
こうも言うのだった、幸村に。
「何も」
「有り難きことです」
「ははは、ですから心配無用ですぞ」
「左様ですか」
「源四郎殿は謙虚ですな」
「天狗は好きではありませぬ」
幸村は兼続の謙虚という言葉にこう返した。
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