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どんなになっても
7部分:第七章

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第七章

「それでもね」
「それでもですか」
「それでその身体は」
「いやあ、一匹の尻尾を踏んづけてしまってね」
 そうしたというのである。
「その猫が大暴れしてね。他の猫もそれで暴れて」
「それでか」
「それだけの傷が」
「そうなんだよ。いやいや本当に」
 何でもないといった言葉がここでも出されていく。
「困ったよ」
「困ったどころじゃないだろ」
「そこまで傷受けたら」
「もう」
「女房もね、ちょっと引っ掻かれてね」 
 シャハラの話もするのだった。
「僕程じゃないけれど」
「しかし。五十匹もいて暴れたら」
「それこそ大変なことになるんですね」
「大変?何が?」
 そういった言葉には相変わらずの返答の彼だった。
「何が大変なの?」
「大変って。そんな傷していたら」
「それはもう」
「全然?何で大変なの?」
 また言うアブドルだった。何とでもないようにだ。
「それで」
「それでって」
「あの、その傷じゃ」
「もう幾ら何でも」
「ははは、こんなの何でもないよ」
 顔も首筋も腕の至る場所も噛まれた跡や引っ掻かれた場所があってもである。全く平気なのだった。そんなことは一切気にせずに言うのである。
 そしてだ。その彼の言葉はだ。
「それでね」
「うん、それで」
「どうしたんですか?今度は」
「いや、いい話が来たんだよ」
 こんなことも言うのだった。
「日本のテレビ局がね」
「日本の?」
「あの生のお魚食べる?」
 彼等の日本への認識にも魚が出て来た。どうしてもそれは切り離せないのであった。
「あの国から」
「来たんですか」
「家の猫達を取材したいってね」
 そんな話が来ているのだという。
「いや、有り難いよね」
「有り難いって」
「それもですか」
「そうだよ。有り難いよ」
 心から嬉しそうに言った言葉であった。
「うちの猫達を見てくれるんだからね。本当にね」
「そうか。そんなにか」
「嬉しいんですね」
「嬉しいよ。さて、それじゃあ」
 意気軒昂な声での言葉であった。
「また今日も帰ったら可愛がらないとね」
 そんなことを言って楽しそうな顔になる彼であった。彼は今幸せであった。例えどれだけ傷だらけになろうとも。彼は最高の幸せの中にいるのであった。愛する猫達に囲まれて。


どんなになっても   完


                 2010・1・12

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