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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第五十六話 クロプシュトック侯事件(その4)
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り無茶をするでないぞ。グリンメルスハウゼンを悲しませるな」
「……」
俺は軽く頭を下げる事で答えた。
「何か望みが有るか」
「……では二つお願いがございます」
「二つか、欲張りじゃの」
皇帝は面白そうに答えた。

「一つは、ブラウンシュバイク公にクロプシュトック侯討伐に当っては軍規を正せと」
「ふむ、よかろう。で、もう一つは」
「出来ますれば、バラの花を一本いただければと」
途端に皇帝は笑い出した。

「確かにそなたは面白いの、グリンメルスハウゼンの言うとおりじゃ。バラの花か、今までバラの世話をしてきたが、花をねだられたのは初めてだの。しかも一本か? 恋人にでも渡すのか?」
「いえ、怖い部下がおりますので、そのご機嫌を取ろうと思いまして」

皇帝はますます上機嫌だ。誰もこのバラをねだらなかったのか? 結構綺麗なんだが。
「よかろう、持って行くが良い」
皇帝はバラの花を一本切ると俺に渡してくれた。
「さて、そろそろ謁見室に戻らなければならぬ。ヴァレンシュタイン、そなたも戻るが良い。楽しかったぞ」

皇帝と別れ宮殿を歩いているとリヒテンラーデ侯に呼び止められた。俺を待っていたのか?
「ヴァレンシュタイン中将、卿はバラを貰ったのか?」
「はい、それが何か?」
「大胆じゃの」
「? 誰もバラの花をねだった事が無いとお聞きしましたが」
「バラは陛下の唯一の御趣味じゃ。皆遠慮しておったのじゃ」
「……」
遠慮も程々にしたほうがいいぞ。

「陛下とのお話はいかがであった」
「礼を言われました。昨日の件と先日の件です」
「そうか、他には?」
「バラの話で終わりました」
俺のことを警戒しているらしい。権力者って悲しいよな。

「フレーゲル男爵の件、よくやってくれた」
「?」
「最近、妙に調子に乗りおっての。リッテンハイム侯が先日の一件でケチをつけたので、これからは自分達の時代だと考えおったらしい。跳ね上がりどもが」
苦々しげに顔を歪める。悪人面だな。

「ブラウンシュバイク公もそうお考えでしょうか」
「いや、そこまで楽観はしておるまい。厄介なのは本人よりもその周囲じゃ。これを機にのし上がろうとしておる」
「?」

「エリザベートが女帝となれば、ブラウンシュバイク家の次期当主の座が空く。フレーゲルの狙いは次のブラウンシュバイク公か、あるいは女帝夫君といったところかの。身の程知らずが!」
吐き捨てるようにリヒテンラーデ侯が言う。なるほど、可能性はあるな。しかし、あの阿呆が次期ブラウンシュバイク公?女帝夫君? 悪い冗談だな。ちょっとからかってやるか。

「そうなったら、侯はお払い箱ですね」
リヒテンラーデ侯がますます顔をしかめる。
「嫌な事をいうの、しかし卿とてただでは済むまい」

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