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どんなになっても
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第一章

                    どんなになっても
 アブドル=モハマドはクアラルンプールに住んでいる。ごく普通のサラリーマンである。
 マレー系独特の浅黒い肌と人懐っこい大きなはっきりとした目が目立つ。中々の美男子であり大学を卒業して早速美しい妻を手に入れた。
 性格は円満で会社での成績もよかった。しかしであった。
 彼は少し人の噂になることがあった。それは何故かというと。
「また頬に傷があるな」
「そうね、またね」
「額にまで」
 皆彼の顔にある傷を見てヒソヒソ話をするのだった。自分の席で真面目に仕事をしているアブドルだったが周りはそうはなっていなかった。
「あの傷は一体何なんだ?」
「あれかしら」
 OLの一人がここで言った。
「奥さんと喧嘩して」
「それで夫婦喧嘩で引っ掻かれた?」
「そういうこと?」
「だってしょっちゅうあるじゃない」
 このことも指摘された。
「あっちが消えたらこっちが消えだし」
「それであんなに傷があるのかね」
「だからなのかしら」
「そうじゃないかしら」
 そのOLは首を傾げながらこう言うのであった。
「夫婦喧嘩の結果なんじゃないかしら」
「いや、それはどうかな」
 しかしここで眼鏡をかけた男が言ってきた。
「それは違うんじゃないかい?」
「違うんですか?」
「モハマドの奥さんはとても大人しい人だよ」
 眼鏡の男はこのことを言うのだった。
「とてもね。大人しくて何があっても怒らない人だよ」
「それじゃあ」
「それにだよ」
 眼鏡の男はさらに言うのだった。
「モハマドが誰かと喧嘩するような人間かい?」
「それは」
「ちょっと」
「そうだろ。彼は誰かと喧嘩をする様な人間じゃない
 続いて彼自身について言われるのだった。
「それはね。とてもね」
「じゃああの傷は一体」
「何なのかしら」
「それはわからない」
 眼鏡の男もこう言うしかなかった。
「けれどしょっちゅう傷をしているのは確かだね」
「顔だけでなく手の平だって」
「いつも幾つも傷あるし」
「本当に引っ掻かれたみたいな」
「何だろうね」
 その傷の理由は誰にもわからなかった。しかしであった。
 彼の傷は尽きない。一つが治れば三つ出て来るといった具合にだ。そんな有様であった。
 その彼が家に帰ると。家はクアラルンプール校外の一軒屋である。そこにようやく買えたのである。そこに帰った彼を玄関で出迎えたのは。
「ウニャアア!」
「ニャア!」
「フギャア!」
 奇怪な鳴き声とその主達だった。彼等は早速彼に飛びかかってきた。
「ああ、只今」
 彼は笑顔で彼らに応える。見れば猫が一気に十匹程度彼にまとわりついてきたのである。隣の国のシャム猫もいればトラ猫もいる
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