欲に惑うも歩みは変わらず
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を投げやる。
自分の恋心が何に向いているのか、詠には分かっている。
記憶を失う前は自覚せずにいて、記憶を失ってから自覚した。余計に膨らませて来たのは、今の彼があってから。雛里や月とは違う方向性で、彼女の恋は育っていたのだ。
前の彼を否定するような自分の心に罪悪感と嫌気を感じつつも、彼女は質問の答えを待った。
返されるのは苦笑いと黒い眼差し。
その答えに、詠は茫然と目を見開いた。
「……あるぞ。ちょっとだけだが」
黒瞳の中の輝きが、濃さを増して渦巻いているように見えた。
優しげな表情であるのに何処か感じる違和感。しかし前のあの時よりはまだマシに思えた。
穏やかな声が流れる。それは不思議と安心感を与えるモノで、いつもの彼よりももっと優しく、思いやりに溢れたモノだった。
「黒麒麟は多分……“あの子”を切り捨てられない。何があっても絶対に、他の何を切り捨てても“あの子”だけは絶対に守り抜くだろうって、それが確信できた」
それが例え、自分の存在全てを賭けても。
続けられた言葉に、詠の胸に大きな痛みが走った。
分かっていたことではある。分かり切ったことであろうに。
彼の想いの向く先が、いつもいつだってたった一人であることは。
「どうして確信できた、の?」
声が震える。理由が知りたかった。どんな記憶を思い出して、今の彼がそう思ったのか。
「……後悔と自責は色んなとこに向いてたけど、やっぱりあの子だけは特別だったんだ。そこまでしか分からないけど、他ならない俺のキモチだ。俺が一番よく分かる」
ふいと顔を背け、詠はそれ以上彼の顔を見ていられなかった。
恋心は既に知られている。勘のいい彼のことだから、詠がそんな感情を向けているのは理解しているだろう。
昔の彼ほどに鈍感では無い。気付いていてこの話をしているのだから、惚れたもの負けとはよく言ったモノだった。
彼自身の心はまだ語られていない。今の自分に価値は無いと考えている彼だからこそ、想いが何処に向いているのか話そうともしない。
記憶を失ってからは雛里よりも詠や月の方が共に居たはずだ。いや……朔夜や風も数えるならば雛里よりも接点は多い。
それであっても、やはり彼は一重にたった一人の少女のことだけしか考えていないのではないかと思えるくらい皆のさりげないアピールを躱してきている。
――今のあんたも雛里が大事? ボクや月が上、とか思ってくれなくてもいい。でも、同じだって……言って欲しい。
度し難いな、と詠は思った。他と比べてしまう時点で自分の欲はやはり彼を求めているらしい。
気持ちの切り替えは少し出来そうになかった。語られた彼の確信は、真っ直ぐに真実を映す瞳から分かるように事実だろう。だから
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