欲に惑うも歩みは変わらず
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の曖昧化も容易なのだ。詠が判断したこの方策は、徐晃隊の特殊な成り立ちがあってこそではあるが、劉備軍と西涼のどちらにも警戒心を与える不可測の一手となり得た。
しかし大きなリスクも背負っている。
例えばまだ使者としての建前がある彼ら三人を兵士で取り囲めば捕らえるのは簡単だ。
政治的な問題を度外視して戦の有利を選ぶのなら此処で彼らを捕まえるのが劉備軍にとっては最善であろう。
西涼と密に繋がり、五大将軍として数えられる徐公明を無力化したとなれば西涼の救援に対する返答としても申し分ない。
まあ、詠は桃香の性格、そして白蓮や愛紗等の正道を望む者達の思考を詠み切ってそれは無いと切って捨てているのだが。
からから、からからと風車が回る。
微笑みを浮かべて無言。秋斗はのんびりと馬の上で空を見上げていた。
あの華佗との接触が終わってから、詠は秋斗に問い詰めた。
記憶は戻ったのか、何を聞かれたのか、今はどんな状態か……大きな心配を抱えながら、寝台に誘ってまで尋ねた。
其処に闇色の瞳は無かった。一寸だけ垣間見た黒麒麟の絶望に濁り切った瞳は無かった。
ただ、彼は詠にも猪々子にも少ししか話さなかった。伝えた言葉は……ほんの僅か。
『西涼での戦が終わったら華佗が俺達の所に来る。どうやらあいつが優先すべき患者になったらしい』
それでも、と言い掛けた詠を止めたのは猪々子だった。
秋斗が話さないのなら待ってやれと、無言で止めた。代わりとばかりに豪快に笑って、彼女はバシバシと肩を叩きながら良かったと言った。そんな猪々子がまるで徐晃隊のように見えて、詠は唇を尖らせるだけで何も聞くことはせずにその時は終わった。
そして現在……三人はのんびりと益州の街道を進む。
「ねぇ」
「んー?」
クイとメガネを押し上げつつ、詠が声を投げた。振り返った彼は穏やかで、子供っぽさの残る表情は満足気。
向けられた流し目に鼓動が跳ねる。頬を染めつつも平静を装い、目を逸らした。
「朱里……諸葛亮は必ずボク達に何か仕掛けて来るわよ」
「そうだな、えーりんはどう見る?」
「……あんたを益州から抜け出させないように、多分、西涼への助力として益州内で戦を展開する、と思う」
「使者の名目が残ってるにも関わらずにか」
「西涼の要請を呑んだ時点で劉璋の面目なんて気にならなくなってるわよ。もう民の評価は逆転してるんだし」
「なら、今の俺達の動向が分かってるはずなのに捕まえに来ないのはなんでだ?」
「軍としての動きを見せるかどうかが重要なの。ボク達が曹操軍として戦に向かうこと、そして劉備軍が救援を行うこと、最低限その流れがないとボク達に言い訳が立つから卑怯者って呼ばれることになる。それだけは朱里も避けたいんでしょうね」
「
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