欲に惑うも歩みは変わらず
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生きてれば他は些末事だしよ」
トン、トン、と肘かけを鳴らした。一定のリズムで刻まれる音は、劉璋の声を引き立たせるように場に響く。
そういえば、と部下達は少し前の記憶を引き出して行く。それは彼が……劉璋がこの益州を纏め上げた時のこと。
兄弟で殺し合うと決めた時は何も欲しいと言わなかった。ただ自分が楽な生活をしたいからと一番になっただけで。
劉璋は無欲だと勘違いしていた。
あの時も、兄弟でのコロシアイ事態を楽しんでいたのだ。人間の絶望を甘露として啜っていたのだ。
「信じた奴の絶望する顔ってのはさぁ……たまんねぇんだよ。アニキ達が死に床で見せたあの時より、きっともっといいもんだろうぜぇ?」
その楽しそうな表情を見た皆は、背筋に昏い悪寒が駆け巡る。
紅い舌が艶めかしく唇を舐め、得物を狙う蛇のように見えた。
「くっくっ……お前ら、そんな顔すんなよ。これは俺の最後のわがままだ。あの女以外俺は他に何もいらねぇ。
民のこと考えろってんなら考えてやる。
国のこと考えろってんなら考えてやる。
乱世を伸し上がれってんなら戦もしてやる。
甘い蜜吸わせろってんならたらふく吸わせてやらぁ。
覇王に従えってんなら別に従ってやってもいい。
嫌いな孫呉と手を結べってんならそれだってやってやろう。
コレが終わったらもう、“お前らが願うお前らにとってのいい太守”になってやるからよぉ……あの女を俺に寄越せ」
ゆるりと立ち上がり両腕を胸の前に伸ばす。震える拳を握りしめて……ゆっくり、ゆっくりと開いていった。
「俺の望みを聞くなら、お前らの望みも聞いてやる。それでいい、それでいい。好き放題遣りたい放題やればいいんだ。
だってお前らはお前ら自身が身の内に宿す欲望の為に、益州の龍を主に選んだんだから」
引き裂かれた口は、劉璋が昔に一度だけ見た事のある悪龍の本性と同じだった。
「さあ……俺と一緒に、楽しいことしようか」
†
からから、からからと風が吹く度に音が鳴る。
馬を進めながら鳴るその音は、人よりも大きな体躯の男の手から鳴っていた。
くるくると回る風車のおもちゃは、いい年をした大人が持っていても違和感しかないのだが……詠や猪々子は彼の子供っぽさを知っているからか、不思議と違和感を感じ得なかった。
陣を退くにあたり部隊を連れ立たず進むのは三人だけ。
各小隊に集合地点を伝えてあるからか、物資運搬の者達以外は詠達を含めてバラバラに動くことになっていた。狙いは多々ある。
西涼に集って戦うにしても、益州で何かコトを起こすにしてもその動向は出来るだけ見えない方がいい。
総数を誤魔化すことも出来れば、目的
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