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乱世の確率事象改変
欲に惑うも歩みは変わらず
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張任が不安げに問いかけた。
 しかし劉璋の表情は崩れない。慈しみを込めた目で見返した。

「お前の忠義は理解してるぞ、張任。だがな、これは事実だ。お前も分かっていように。益州は盤石じゃない。だからこそ諸葛亮や徐庶の小賢しい策に嵌りかけ、黒麒麟と曹操に隙を与えている。外部からの手助けがなけりゃ今頃俺らは牙を折られて翼をもがれていただろう」
「しかしっ……」
「誰しもに忠義持てというのはお前の我欲だぞ、張任。人間は千差万別、同じになんてなれない。共通意思を持たせその方向に導くことは出来ても、心までは同じになんかならねぇんだ。
 とは言っても……逆らう奴は許さんけどな」

 ぐるりと皆を見回して唇を舐めとる。瞳の冷たさには悪寒を覚えさせる程の怪しい輝き。

「とりあえず、だ。忠義ありしモノも野心ありしモノも目的は一致した。劉備にこの大地を奪われることは俺達にとっちゃぁ生き辛くなるだけだろう。
 昔から生きてきた愛着もある。俺はこの大地を親兄弟から勝ち取った責任もある。王としてこの大地に生きる奴等に力を示す義務もある。全てを果たす時は、今此処だ。その為には俺が昔に放った命令をもう一度下す」

 懐かしみながら宙を見る。
 親兄弟、親類が奪い合うこの益州でたった一人の王となった劉璋の意地は、此処の王として立ち続けることだけ。
 例えどんな事を行おうと、最後の勝者が自分であればいい。非道悪逆なんでもござれ、龍の血は、清廉潔白のみならず。
 引き裂かれた口はもう居ない悪龍と同じく。

「……悪を為せ。勝利の為に手段を選ぶな。昔の、俺の兄弟を殺した時と同じように。民も、兵も、武官も文官も、全てに線無き泥沼と化せ。
 奪い、殺し、踏み躙り、犯し……その悉くを我らのモノとせよ。
 安ずるな、臆するな、逃げるな怖気づくな顧みるな。俺が貴様らの悪を全て背負ってやるのだから、貴様ら個々の覚悟と活躍を俺の為に捧げろ」

 悪逆の行いが帰するのは龍の名に。劉璋の行いとしてこれから幾歳も語られることになる。
 本来の戦とはどういうモノかと、彼らは知っている。
 この甘くなってしまった世界で語られてきた兵法は、もっと混沌としていたのだから。

 一人、また一人と部下達が膝を折って行く。
 禁は解かれた。此処から益州は血と泥に沈むことになるだろう。それを作り上げるのはほかならぬ自分達だ。

「御意に、我らが主」
「御元に勝利を」
「益州に龍の産声を」

 頭を垂れる姿はいつみても爽快だった。満足気に頷いた劉璋は、思い出したように笑う。

「一つだけ約束して貰おうか。あいつは……劉備は俺のモンだ。必ず生きたまま連れて来い。屈辱と羞恥と諦観と絶望に染め上げた上で、俺の女にしてやらなけりゃぁならねぇんだ。後は好きにしろ。あいつさえ
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