欲に惑うも歩みは変わらず
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くても成り立つのは間違いない。あくまで考えるのは彼らの仕事で、裁決を下すのが王というモノだと分かっているから。
漢中に向かった劉備を討つ為の策は幾重にも上る。
何処を戦場とするか。どの時機で戦闘をすればよいのか。どのような手段を用いて有利をもぎ取るか。
兵数としては劉璋軍の方が上。しかし練度で言えば劉備軍が上。
不確定要素として民の懐柔による徴兵はあるが、益州の北部はまだ劉備の名が染み渡っていない大地であり、その点は少なく見積もっている。
一つ、彼らが献策してくる策の中に楽しげなモノを見つけた。
「おい」
一声でその場に静寂が戻った。
肩肘を付いて眺めていた劉璋の声は、混沌とした部屋の中でもよく響いていた。
彼が気に留めた一つの策は……劉備では絶対に取り得ない最悪の一手であった。
「その策、気に入った。甘いことしか考えねぇあの女を絶望させるにはこれ以上無い。不確定要素を排除するにも持ってこいだ。糧食の関係上、あいつらが戦を出来る時間は限られてくるんだからよ。
ははっ! その代わりぃ……」
片目だけ細め、口の端を吊り上げた悪辣な表情が映えていた。
「勝てなけりゃ未来はねぇぞ? 俺も、お前らも……な」
覇気を纏って発される声に、その場にいる男共の背筋に冷や汗が伝う。
裏に込められた意味合いが、部下の誰かしらが持っている余裕を打ち崩した。
「いい機会だ。少し話をしよう」
満足そうな不敵な笑みで、劉璋はゆったりと脚を組み直す。耳を澄まして聞き入る部下達に向けて、トン……トン……とひじ掛けを叩きながら語り始めた。
「誰のことかは言わねぇが、劉備だけじゃなくて俺の座を狙ってる奴がいるのは知ってる。ああ、勘違いするな。咎めるつもりなんかねぇよ」
ざわめく室内の空気を苦笑で払拭し、ひらひらと手だけで黙せと示す。
「こんな時代だ。龍の血を蹴落として太守になりたいのは自然なことだ。野心を持つのは悪いことじゃねぇ。いや……むしろ争いは望ましいことかもしれねぇぞ。発展と進歩は戦によって齎されてきた。殺し合いが人間を成長させる」
気分よく語る彼に、唖然とする部下達。誰も口を挟むものはいない。それは違う、という桃の少女も。論理的に相違点を述べる竜も。
「俺は誰かにこの椅子を奪われたくないから最大限の力を尽くす、奪いたい誰かは上に立ちたいから全てを尽くす。そうやって磨き上げられた力と力がぶつかって、長い安寧を齎す力が手に入る。
だから……俺に勝てるってんなら好きにしろ。野心反骨心大いに結構。謀略の糸を張り巡らせ、俺から全てを奪い尽くしてみせろ」
「……何故、そのようなことを申されるのです」
挑発的な言葉の後で、一番の忠義を持っているであろう男――
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