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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第五十五話 クロプシュトック侯事件(その3)
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方を探していたのですよ。最初は、ヴァレンシュタイン中将のところへ行こうと思ったのですがね、こちらのフロイラインと一緒でしたので遠慮したのです」
ミュラーの問いにリューネブルクは笑みを浮かべながら答える。俺たちが邪魔をしたといっているのだろうか。

「それにしても面白い物を見せてもらいました。何故フレーゲル男爵を殺さなかったのです?」
リューネブルクの言葉にミュッケンベルガー、エーレンベルクが驚く。簡単に経緯を話すとミュッケンベルガーは感心せぬといった風情で首を振り、エーレンベルクは溜息をついた。
「オッペンハイマー伯同様、処断できたと思いますが?」
再度のリューネブルクの問いかけにヴァレンシュタインは少し小首をかしげながら答えた。

「オッペンハイマー伯とは状況が違うでしょう。ブラウンシュバイク公は納得していませんでしたからね」
「なるほど、リッテンハイム侯は納得していましたな」
「ええ、フレーゲル男爵を殺すとブラウンシュバイク公の怒りを買うことになるでしょう。あまり得策とはいえません。まあ、あのあたりで止めるのが上策でしょう」
「貸しも作りましたからな」
「ええ、返してもらうときが楽しみです」

ヴァレンシュタインとリューネブルクの会話が続く。そしてミュラーが、ケスラーが、ミュッケンベルガー父娘、エーレンベルクが加わる。俺も会話に加わったが心の中では別のことを考えていた。

「恐ろしい男になった」
ケスラーがここへ退避する途中で吐いた言葉だった。つぶやくような声だったから聞いたのは俺だけだったろう。俺も全く同感だった。クロプシュトック侯の爆弾を見破った事、フレーゲルを罠にはめた事。恐ろしい男だ、緻密で冷徹で非情になれる男、ヴァンフリートで会った頃はこんなにも恐ろしい相手だとは思わなかった。何時でも俺の上に立とうと思えば立てる男だ。俺を排除するのも難しいことではあるまい。それなのに俺を気遣うような発言をする。

「閣下に万一の事が有っては困るんです」
あれはどういうことなのだろう? 聞きたかったが聞けなかった。俺を評価しての事なのか? それとも俺を何かに利用出来ると踏んでいるのか? どちらも有りそうだ。ヴェストパーレ男爵夫人は彼と話せと言ったが話をして判るのだろうか?

キルヒアイスがいてくれたら、と思う。今の俺の胸のうちを話せる相手はキルヒアイスしかいなかった。彼が答えをくれるとは思わない、謀略等は苦手だから。それでも俺の胸の内を話し、俺の悩みを理解してくれる人物はキルヒアイスしかいなかった……。





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