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銀河英雄伝説〜悪夢編
第五十五話 強かな男の狙い
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事実だとしてわざわざ公表する意味は何です、先輩」
「そうだな、……反ヴァレンシュタイン勢力を混乱させられるだろう。本来皇帝エルウィン・ヨーゼフ二世は彼ら反ヴァレンシュタイン勢力の忠誠心の向かう先だった。皇帝への忠誠心が彼らを一つに纏める筈だった」
「……」
ヤンがまた髪の毛を掻き回した。

「ところがエルウィン・ヨーゼフ二世はゴールデンバウムの血を引いていない。皇帝になるべき人間じゃないんだ。反ヴァレンシュタイン勢力は誰に忠誠を捧げるか、そこから始めなければならなくなった。混乱するだろうし一つに纏まるかどうか……。時間がかかるだろう。それだけでもヴァレンシュタイン元帥は有利だよ」
「なるほど」
アッテンボローが頷いた。

「廃立しないのはその所為ですか。廃立すれば新たな皇帝を立てなければならない。当然だがその皇帝はゴールデンバウムの血を引いている。つまり反ヴァレンシュタイン勢力が新たな皇帝の名の元に纏まり易い」
「その可能性は有ると思うね」
“強かだな”とアッテンボローが溜息を吐いた。

「そう、強かだよ、アッテンボロー。彼は驚くほど強かだ」
「……」
「ヤン、お前さんの言う通りかもしれない。だがな、俺はヴァレンシュタイン元帥の狙いがそれだけとは思えない。別な事も考えているんじゃないか、そう思っている」
二人が俺を見た。

「皇帝が誰であろうと関係ない。帝国を統治しているのは自分だ。そう帝国人達に宣言しているんじゃないかな。エルウィン・ヨーゼフ二世が皇帝の地位にあればある程ヴァレンシュタイン元帥の影響力、支配力は強まる。彼がエルウィン・ヨーゼフ二世を廃して自らが皇帝になった時、それを簒奪と言えるのか? 真の実力者が偽の皇帝を廃して皇帝になっただけだ。帝国を正しい形にした、そうなるんじゃないか」
今度はヤンが溜息を吐いた。

「有りそうですね、それ」
「……」
「今のヴァレンシュタイン元帥にとっては敵の撃破以上に足元を固める事が大事なのかもしれない。エルウィン・ヨーゼフ二世はそのための道具か。情け容赦ないな」
ヤンが嘆息した。沈黙が落ちた。その沈黙を振り払うかの様にアッテンボローが頭を振った。

「父親、誰なんでしょうね」
「貴族だとは思うけどね、生きているか死んでいるか」
「死んでいれば幸いだな。生きていれば地獄だろう」
自分の不義の息子が帝国を終わらせる道具になっている。苦しいだろう、だが誰にも話す事は出来ない。話せば身の破滅だ。心の中に秘めて生きて行くしかない……。




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