8部分:第八章
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事実だから認めるしかなかった。言葉で応えた。
「有り難うね。あの頑固な脚本家さんにまで頼んでもらって」
「いいのよ、それは」
山本はそれを特に誇示しようとはしなかった。だからこう言ったのだ。
「だってマネージャーなんだし」
「マネージャーだから?」
「タレントが上手くいくようにするのは常識でしょ。気にしないでいいわよ」
「そうなんだ」
「そうよ」
少し恥ずかしそうに述べた。
「だからね。気にしないで」
「有り難うね」
それでも心は伝わった。恵理香はそれを感じてニコリと笑った。
「最初はこの役嫌だったけれど何か好きになったわ」
「そうなの」
「うん。だからずっと頑張るわよ」
「そう言ってもらえると有り難いわ。けれどね」
「何?」
「あんたが頑張らないといけないのはまだまだあるわよ」
「グラビアとか?」
「それもね。まだまだやるから」
「それと歌も?」
「そうよ。今度ニューシングル出すからね。こっちでも評判いいんだから頑張りなさいよ」
「何か仕事多いなあ」
「仕事が多いのが売れてる証拠」
マネージャーとして当然の言葉であった。
「だからどんどんいくわよ」
「山本ちゃん仕事なら何でも取って来るのね」
「取れる仕事は何でも取らないといけないからね」
「ふうん。けれどさ」
「何?」
「山本ちゃんもテレビに出てみたら?」
「な、何言ってるのよ」
恵理香のその言葉に顔を顰めさせる。
「何で私がテレビに」
「いいと思うけれど。山本ちゃん奇麗だし」
「私はマネージャーよ。マネージャーがどうして」
「そういう企画もあるじゃない。マネージャーさんも一緒に出たりするの」
「あれは反則よ。やっぱりマネージャーは」
「裏方だけれどさ。それでも山本ちゃん評判なんだよ」
「嘘よ、それ」
「嘘じゃないって。本当なんだからさ」
実際に山本の知的で凛とした美しさは業界で評判になっている。恵理香より彼女の方がずっと奇麗だと言う者までいる程である。当の本人は気付いておらず恵理香も全然気にしていないから表にはなっていないが。
「どう?」
「嫌よ」
山本は即答した。
「あんただけにしなさい」
「ちぇっ、つまんないな」
恵理香はそう言われて口を尖らせて述べる。
「折角一緒なのにさ」
「それはそれ、これはこれよ」
山本はそう言い返す。
「タレントとマネージャーの関係よ。よく覚えておきなさい」
「はいはい。面白くないなあ」
「そう思うよりもまず芸を磨くこと」
毅然として述べた。
「いいわね」
「了解。じゃあ今度は本当にヒーローの役頂戴」
「はいはい」
そんな話をしながらオフの朝を過ごしていた。タレントとマネージャーの二人だけのささやかな朝、そんな仲での話であった。
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