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真・恋姫†無双~現代若人の歩み、佇み~
第一章:大地を見渡すこと その参
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乗っていた馬は駄馬だという事、愛馬は足の速さは良馬と比べれば劣るが体力はそれ以上にある事、賊共のいづれもが騎射ができる腕前ではなかった事、そして賊共が彼女の追跡を中断する強い理由が存在した事だ。いづれか一つの理由が欠けていれば、彼女の身が危険に晒される可能性が著しく上昇していたであろう。この時代を生きるには実力以上に運も重要であることが如実にわかる。
 先ほどまで部屋の中に存在した暖かな空気が沈黙によって床に沈溺する。今場を占めているのは気まずげな重い空気。次に何を話したらいいかわからぬ仁ノ助は、彼女に顔を見られていないのをいいことに、顔をはっきりと曇らせて唸りながら新たな話草を探している。対する詩花も自分の話が終わった事を沈黙によって意思表示している。  
 やがて彼は何も思いつかなかったのか、不自然な口調で始まりながら話題を強引にを転換した。

「……そ、そいうえば、俺明日にでも買い物を済ませて、明後日の朝には町を出ようと思っているんだ」
「……」
「…ええっと、商人の人達に旅で得た小道具やら情報やらを売り買いしてな、衣服とか武器とかを新調するのが予定なんだ」

 身振り手振りおどおどしながら彼が話していく。
 彼は昔を振り返るに、ここ半年は洛陽からほぼ真東、徐州刺史陶謙が治める地より西の方へと向かってゆっくりと歩みを進めてきた。途中途中の町村で日雇いの仕事や短期の荒事を中心に金稼ぎを行っていき、また人の依頼にしっかりと付き合ったりしながら時を重ねてきたのだ。このような拙速な行動をしてきたのは、彼の知識にある出来事が思い当ったためでもある。

 昨年の夏の終わり、旧暦の6月頃に、日南郡南方諸国から使者が参上し、洛陽にて饗応|《きょうおう》がされたとのことが商人らから明らかとなったのだ。
 覚えていることが未だ正確であれば、あと一月もしないうちに太平道大方の地衣にある、馬元義が中常侍の封?・徐奉らと内応するも教団内部からの密告で事が露見し洛陽内で車裂きの刑に処される筈。同時に綿密な取り調べにより張角の道術を行っていた者千人以上が処刑され、張角に対する拿捕命令が下され、これに対して張角は予定していたより一月早い二月に決起をするのだ。この一連の動きによって遂に『黄布の乱』が起こされて、中原全土に戦禍が広がり次の重要な出来事である、対董卓連合軍結成の下地が出来上がる。自らがこの乱世の中心に飛び込む気は大して無いが、それでも現代にまで伝わる三国時代の幕開け、そして決して滅びない数々のドラマを生んできた英傑たちとの邂逅。図らずともこの渦中に自分が参加できるまたとない機会であることは明らかである。仁ノ助の内心は戦禍を憎む気持ちよりも、それらに対する憧憬や好奇心を中心とした興奮が占めていた。「もしかしたら自分が彼らのような大人物となるかもしれない
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