暁 〜小説投稿サイト〜
真・恋姫†無双~現代若人の歩み、佇み~
第一章:大地を見渡すこと その参
[5/8]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
の言葉は小さすぎた。改めて言ってもらうともう一度願いを口に出す。

「今・・・なんて?」
「いいいいい、家出なの!!!!!!!!」

 完全に熟れた果実のように赤くなった顔を強調するように目を閉じた彼女は、思わず部屋中に広がるように叫んでしまう。羞恥心で心も頭もいっぱいいっぱいになり、嗚呼嗚呼と訳の分からぬ言葉を口に出しながら枕に顔を埋め始める。仁ノ助は二の言葉も継げず呆然としてしまう。昼間、あんなに一生懸命だったのは家出が最終原因?
 思わず肩の力が抜けてしまい、溜息が漏れそうになる。しかし漏らしてしまったら最後、彼女にさらなる恥をかかせることになってしまう。それは幾らなんでも酷だ。そう思い、励ますような口調で話しかける。しかし口に出てしまったのは励ましの言葉ではなく好奇心であった。

「・・・・・・なんでか、聞いてもいいかな?」
「・・・・・・・・・・・・あたしの家、小さい商家なの」

 彼女が枕に顔を埋めながら言葉を零す。訳ありのようである思い出話を話してくれる勇気に、感謝の念が湧いた。

「しょっちゅう金のことばかり考えて口に出す父上に苛立って、ある日家を飛び出して、それっきり町を転々として食いつないできたの」
「・・・・・・うん」
「・・・・・・でも何処に言っても寂しくて、やっぱり帰ろうかなて思ったの。んで、帰る前にもう一度自分の勇気を試そうかなって思って・・・」
「あいつらに襲われた?」
「そう。」

 深い息が詩花の口から出される。事態は思ったよりも深刻だ。父上は自らの家族のために働いているのであろう。しかし彼女の目にはそれが人に媚びへつらって頭を下げる、情けなさと不甲斐なさに映ってしまった。自分に目を向けるときには、愛情ではなく金を媒介にして見ている気がしたのだ。ありのままの自分が父親の目に映っていないと思ってしまった彼女は、嫌気がさしてこのような事を起こしたのである。今更帰ることは彼女の思いを無駄にするようでもあるが、父親が彼女の行方を捜しているとしたらそれもまた心配である。
 仁ノ助は思わず悩む。だがいくら待ってもそれらしい答えが出てこない。彼はあえて言葉を口にせずに、彼女の独白を待った。やがて彼女がまた溜息と共に言葉を紡いだ。

「……あいつらは初めはあたしが乗っていた金毘|《きんび、愛馬の名前》に目をつけて、次にあたしの体のほうに目をつけたの。気持ち悪い顔でにやついてきて、怖くなって金毘を思い切り走らせて逃げたら追いかけてきて……」
「そして町につく手前のところで、俺と出会ったと」

 詩花はその時の賊の笑みを思い出すだけで不快なのであろう、不快感と怒りがない交ぜとなった雰囲気が彼女から発せられる。
 だが彼女にとって運が良かったのは、事態の打開に幾つもの幸運が重なった事だ。賊どもが
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ