第一章:大地を見渡すこと その参
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にかかってしまい死に至ることも、この時代では一般的なことであった。『経路』という目には見えないルートが全身をめぐって、気や水や血の流れを起こしている。これが滞ることこそ、すなわち不健康の象徴なのである。『中国医術の基本的考えは、悪いところを取り除くことや症状を抑えることではなく、身体のバランスと保つことである』という、陰陽五行論より発展された考えがここに現れている。そんな中で無傷で戦いを切り抜けた男が居れば、さぞ信じがたいことであることは疑いようがない。
女性はうんうんと頷いて、目の前の食机に置かれたラーメンに自己の姿を認めた。
スープの表面は程好く入り交ざったメンマが散らばり、チャーシューはよく焼かれて、スープに麺とよく絡むような肉脂を注いでいる。主役の一つである麺は先ほど味わったところ、スープの出汁をよく吸い込んでいるのが分かり、一口二口を噛み締めるほどに口の中に言葉にいえない満足感を広げる。チャーシューと共にかきこめば、肉の旨みが麺のこしと非常にマッチし、この世の天国を脳の中枢に思い描かせる。噛めば噛むほどに旨みが広がる味わい、これを知らぬ者ほど世で悲しいものはいない、彼女にそう思わせるほどに十分なくらいであった。極み付けはもう一つの主役であるスープだ。真の主役ともいうべきだろうか。わざわざ貴重な鶏を卸して出汁をとり、葱やしょうがを入れてさらに独特の味わいを作る。口腔に広がる暖かでこってり、それでいてキツくないスープ。汁に浮かんだ刻み葱がスープの味を飽きさせることを許さない。口に含めば誰もが必ずや目を見開くことであろう。次いでその完璧な味に頬を緩ませることであろう。女性もその類をもれず、スープをみつめて目尻と頬が緩んでいき、だらしない表情を作った。「またこれを飲めることになろうとは、私は世界一の果報者であるに相違ない。」ともいうように、女性はラーメンが入った器を手にする前に一瞬間を置き、考え改めたか手に箸を握り締めた。スープだけでは腹が満たない、合間合間に麺を食べることも忘れてはならない。女性は新たな標的に目を光らせ、思わずつぶやいてしまう。
「信じられないわぁ・・・・・・」
「それはこっちの台詞だ!!!!」
弾かれるように仁ノ助は椅子から立ち上がって改心のつっこみを口に出す。店の主人はうんうんと首を頷かせていることから、つっこみたいことはこちらにとっても同じらしい。
女性は至上の喜びを味わう行為を邪魔をされたことに目をぱちくりとさせながら、思わず仁ノ助の目を見つめた。数瞬ののち、頬が緩みが解かれて目には困惑の色を浮かべた。
「・・・・・・・・・もしかして、麺が真の主役だった?」
「そこが聞きたいんじゃなくて、こっちがつっこみたいのはお前の食う量だ!!!」
思わず自らが食した料理の数々を脳裏に想起し、それが盛
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