第四話 テレポーテーション
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介は謹慎処分となり家にこもっていたが、二日後、
とうとう彼の自尊心の糸がぷつりと切れ、あの地獄の夜を迎えることになる。
論文も康介の死後、間もなく撤回されてしまった。
ところが、その一年後に海外の研究機関が、同じ万能細胞の形成に成功したとして論文を発表。
2000年に入ると、その技術が再生医療で次々に利用可能となり、
主要研究者たちがノーベル賞を受賞、その功績が讃えられた。
不正論文事件については陰謀説も囁かれたが、結局康介の身分回復なきまま、今に至っている。
「今日はどうします?」
「いつも通りでお願いします。」
「じゃあ、全体を軽くして、カットは2センチぐらいでいいですか?」
「ええ、お任せします。」
百香は行きつけの美容院にいた。店内には80年代の古い歌謡曲が流れている。
「あたし、古い歌謡曲が好きだから、有線はいつもこのチャンネルに固定してるのよね。」
店主がそう言いながら、クシで揃えた毛先を指で挟み、手早くカットしていく。
たまには安室ちゃんの歌も流れたが、それも90年代にヒットした古い曲だった。
百香が初めてこの美容院に入った時、店内は電気も音楽も消え、無人だった。
外には営業中の看板が出ていたはず。
すると奥から50歳くらいの女性店主が現れた。
「いらっしゃいませ」の声と共に電気と音楽がついて、ようやく店らしくなった。
「お客さんがいない時は電気消してるの。つけっぱなしだと、一日何万円もかかるのよ。」
彼女は一人でこの店を切り盛りしているのだ。
そして、同じネコ好きという理由だけで、百香はこの流行らない店をずっと贔屓にしている。
店名は「ココ」。これも、店主が飼っているネコの名前だ。
饒舌な店主で、しゃべりと手が同時進行だからすごい。
店主の愛猫自慢が一瞬だけ途切れ、やっと百香が口を挟むチャンスが訪れた。
「ねえ、さっきからずっと気になってたんだけど、そのネコのサンダル、どこで買ったの?」
鏡に店主の黒ネコサンダルが映った時からずっとそのことが聞きたくて、うずうずしていた百香。
「気がついた? これね、韓国の明洞で買ってきたの。これいいのよ。防水だし。」
「いいわね。そういうの私も欲しいな。」
「韓国なんかすぐよ。格安飛行機使えば、びっくりするぐらい安く行けるから。」
「そうねぇ…。通販では見たことないな、そういうの。」
「でもさ、これよく見てよ。左右でネコの顔違うんだよ。
だから、この間来たお客さんがさ、靴がかたちんばだよ、て。
まるで私をボケ老人扱いだよ。
まあ、おたくは若いから、そんなこと言われないだろうけど。」
その時、有線でプリ・プリの「世界でいちばん熱い夏」が流れ
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