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トンデケ
第四話 テレポーテーション
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り子が目を覚ますと、先輩の姿は消えていた。
翌日になり、彼の溺死体が近くを流れる川で発見されたことを知ったまり子は、
大きなショックを受ける。そして、母・美智子にこう打ち明けたという。

「先輩は私が殺したんだと思う。」

「ええ? 何言うのよ、まり子。」

「またあの発作が起きたのよ。気絶して、目が覚めたら先輩はどこかへ消えてたわ。」

「……彼となにがあったの。」

まり子は気絶する寸前までの出来事を抑揚のない声で語りだした。
すると突然、耳を塞ぎ悲痛な声をあげた。

「私が極限の恐怖を感じると、何か叫んで気絶してしまうの。
 そうすると、目の前から消えちゃうの、人や物が。
 前にも何度かあったの、同じようなことが。 
 こういうの、テレポーテーション、て言うんだって。」

「なんなのよ、それ…。」

「瞬間移動。」

「なに、わけのわからないことを言うのよ。まり子、あんた…」

「嘘じゃないの。私も最初は信じられなかった。でも、私の仕業だと思う。
 先輩を川まで飛ばしたのは私よ。エスパーなんだわ、私…」


「エスパー…」

美智子の口から漏れた聞きなれない言葉。
百香はすかさず尋ねた。

「ねえねえ、エスパーってなあに?」

「ああ…、ええとね。特別な能力を持つ人のことよ。」

「じゃあ、ママも私もエスパーなんだね。」

「うん…、そうかもしれないね。」

特別な能力を持つ人間、エスパー。
あの幼い時の体験はまさに母のそれと同じだ。
つまり、両親をプールへ飛ばしたのはこの私、ということだ。
恐らくあの極限の中で、特別な能力が覚醒したに違いない。
私は母と同じ超能力者、百香はその事実を否が応にも
受け入れるしかないのだ。
百香はなんだか重い鉛を飲みこんだような胸苦しさを覚えた。

その後も祖母は折に触れ、両親の馴れ初めや
事件の動機につながる出来事などを色々と話してくれた。

研究者だった康介とまり子は同じ研究グループで出会った。
二年の交際を経て結婚し、翌年には百香が生まれた。
それを機にまり子が離職したが、
康介はグループのリーダーとして研究を続け、ついに万能細胞を発見する。
1983年1月、専門誌にその論文が載ると一躍注目を浴び、
将来のノーベル賞候補として目されるまでになる。

ところが、その一ヶ月後、論文のデータに複数の不正や盗用が見つかり、
研究そのものの信ぴょう性が疑われ始める。
すると論文執筆の筆頭責任者として、康介がマスコミから厳しく追及を受けるようになり、
その頃からまり子との仲も急速に冷えていった。

そして、不正発覚から半年後に開かれた長時間に渡る釈明会見は、
テレビで全国へと生放送された。

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