暁 〜小説投稿サイト〜
天使の箱庭
シーン1 
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急ぎ足で歩きながら紙コップを口にくわえ、島田春香がコートの袖に腕を通す。
後方からコート姿の中年の男が追いつき、並んで歩く。

 男「島田、リフレッシュ休暇はどうだった。」

春香「あら、おはようございます。」

春香はカップを手で持ち直し、笑顔で挨拶する。

春香「お蔭様でゆっくりできました。」

 男「姉さんには会えたのか。」

春香「はい。でも顔をあわせれば恋人はできたのかって、もううるさくて。
   見合い写真まで用意して待ち構えてるんですよ。いやんなっちゃう。」

 男「なんだ島田、お前、好きな男もいないのか?」

春香「仕事が恋人ですから… なんちゃって。焦って結婚して後悔するのもイヤ        
   ですし、それに、やっと仕事が面白くなってきたところなんです。
   そう簡単にキャリアは捨てられませんよ。」

 男「結婚したって、仕事を続けるって選択もあるんじゃないのか。
   フリーライターになるとか。」

春香「ずいぶん簡単そうに言ってくれますねぇ。」

二人は四角いモニュメントを右に曲がり、高層ビルの敷地に入った。
春香はカラになった紙コップをくしゃっとすると、ゴミかごへぽいっと投げ入れた。

 男「お前ほどの文章力とガッツがあればやってけるさ。」

春香「そうでしょうか。」

 男「本気で考えてみたらどうだ。」

春香「でも、私には相当ハードルが高そうで…。」

男「お前は人の力を借りたがらないからなぁ。
  しかし、仕事で築いた人脈は、お前の立派な財産じゃないか。
  それを利用しないでどうする。その気なら俺だって応援してやるぞ。               それより、お前、仕事以外に何か楽しみはないのか。趣味とか…。」

自動ドアをくぐり、広いロビーに入ると、話し声にエコーがかかる。

春香「趣味ですかぁ。まぁ、家に籠って録りだめたドラマ見るくらいでしょうかねぇ。」

 男「それじゃあ、だめだ。もっと、仲間と出会える場所を作らんとなぁ。          
   よく言うだろ。人生楽しむには3つの居場所を作れって。」 

春香「3つの居場所って?」

 男「仕事と家庭と道楽さ。この3つにバランスよくエネルギーを分散すると、        
   精神的にも安定して、人生に充実感を得られるというんだな。」

春香「仕事以外でくたびれたくないんですけどぉ…。」

二人はエレベーター前にできた行列の最後尾に並んぶ。

 男「思い切って外に出るんだ。仲間のできる道楽を見つけりゃ、
   自然と価値観の近い異性にも出会えるしな。一挙両得、うまくすりゃ、
   3つの居場所がいっぺんに揃うじゃないか。」         
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