第三話 覚醒
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祖母の声で我に返ると、
「おばあちゃん…」
百香がしがみつくように祖母の胸に顔をうずめた。
声も立てずに泣く孫を抱きしめると、祖母は優しく百香の背中をさすった。
「そうかそうか。思い出したんだね、ママのこと。」
そう言うと涙をぬぐった。
参拝を済ませ、冷房の効いた霊園の待合室に入ると、汗がすーっと引く。
バスの時間まで、まだ三十分ある。祖母がトイレに立つと、百香はその間
に祖母の手提げ袋からお弁当箱と小皿を取り出し、テーブルに置いた。
お供え用に祖母がこしらえた、いなり寿司と海苔巻き。
「あ、お茶がいるか。」
流し台で、給茶機のお茶を入れていると、隣にぴたっとくっつくようにし
て男が立った。
「百香さん? こんにちは、武井です。
いやぁ、暑い中、お墓参りご苦労さまでしたね。
この間は突然、電話で無理なお願いをして、悪かったですね。」
黒いワークキャップを被ったメガネの男が、軽く会釈した。
「で、お渡しした、記事なんですけど…」
「・・・」
「どうでした? 書いてある内容は、理解できましたか?」
「・・・」
「事件の夜、百香さんが見たこと、聞いたこと、なんでもいいです。
思い出したこと、おじさんに、教えてくれるかな?」
百香は首を小さく横に振り、押し黙ったまま俯いた。
「もーちゃん、なにしてんの? お茶入れて、はやくいらっしゃいよ。」
祖母の声に救われ、百香は茶を盆に乗せると逃げるようにテーブルへ
戻った。
流し台を背に、祖母の隣に座る。
「お腹空いたろ、さ、お食べ。」
百香は無言でいなり寿司を丸ごと口へ押し込むと、むせながら茶で無理や
り流し込んだ。
「あらあら、はしたない。そんなあわてないの。」
祖母がハンカチで百香の口を拭いて笑った。
百香がそっと振り向くと、流し台では喪服姿のおばさんたちが、大声で雑
談しながら茶碗を洗っている。だがそこに武井の姿はなかった。斜め向か
いのガラス戸越しに駐車場が見える。どこかの車内からこっちを見張って
いるのかもしれない。
「おばあちゃん…」
「うん? なあに。」
「ママは・・・」
言いかけて俯いた百香の横顔を祖母が覗き込む。
「うん? どうしたの?」
「ママは… パパに殺されたの?」
「なに言い出すのよ、あんた…」
「ママはパパに殺されたから、二人は一緒のお墓じゃないんだよね?」
「百香・・。そうかい。いつか話さなきゃいけなくなると思ってたけど。
家へ帰ったら、ママとパパのこと、きちんとあんたに話してあげるよ。
思い出すと、おば
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