第三話 覚醒
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い母の声。
やがて、その声に合わせるように、百香も「トンデケ、トンデケ」と、
か細い声で唱え始めた。
それがだんだんはっきり聞こえる音量にまでなると、最後に一声
「トンデケ!!」と叫び、百香はバタッと倒れた。
次に目が覚めたのは、病院のベッドの上だった。祖母と叔母が心配そうな
顔でこっちを見つめている。
「ああよかった、目が覚めた。もーちゃん、あんた…」
極まっておいおい泣き出した祖母の顔を、百香は今でもうっすらと覚えて
いる。退院後間もなく、百香は祖母の家に引き取られ、苗字も変わって、
事件からは極力隔絶された環境で育った。百香自身、まだ幼かったため、
当時の記憶はほとんど残っていなかったが、時折フラッシュバックを起こ
すのか、図工の時間に黒や赤を多用した不気味な絵を描いて、周囲の大人
たちを沈痛な思いにさせた。
だが後に、心無いマスコミによって、彼女はあの日の凄惨な光景をはっき
りと思い出すことになる。
小学校5年生の夏休み。百香が宿題をしながら家で留守番をしていると、
一本の電話が鳴った。
「はい、圷です。」
「わたくし、月刊フェノミナンの武井と申しますが、百香さん・・ですか?」
「はい、そうですけど・・・」
「よかった、ご本人が出てくれて。お元気そうですね。
私ね、さっきお宅の玄関のポストに、あなた宛の封筒を投函したんですよ。
それ、今すぐ取ってきて、読んでもらっていいですか。で、読んだ感想を
聞かしてほしいんですよ。あ、それとね、家の人には、わたしの事、言わ
なくていいですよ。後で、わたしの方からご連絡を入れるので。
じゃ、よろしく。」
男は一方的に話し終えると、電話を切った。
首をかしげながら玄関に行ってみると、ドアのポストに二つ折りにした大
きめの封筒が挟まっていた。封を開けると、中には数枚の用紙と三つ折り
にした便箋が入っていた。
手紙を広げると冒頭に「百香さんへ」とある。そこには、角張った手書き
の文字が整然と並んでいた。
『はじめまして百香さん。私は雑誌の記者をしている武井といいます。
とつぜんのお手紙ですみません。
あなたのご両親が亡くなって、もうすぐ七年。
あなたも、もう五年生ですか、立派に成長されましたね。
私はずっとあなたのことを気にかけながら、見守ってきました。
おそらく、ご両親が亡くなった日のことを、あなたはほとんど覚えていな
いでしょうね。親せきの方からも、くわしい話しは聞いていないと思いま
す。でも、事件のことを知れば、あなたもきっと関心を持つはずです。
あまりにも謎の多い事件でしたから。
ショックを受けるかもしれませんが
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