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トンデケ
第一話 声
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 百香に暴力をふるうようになった。耐え切れなくなった百香が逃げるよう
 にこの地へと越してきたことで、二人の関係は終わったはずだった。
 ところが、彼女が有名になると、辰郎が再び姿を現し、つきまとうように
 なったのだ。警察に相談して、電話で彼に注意してもらってからは、しば
 らく何もなかったので、ほっとしていた百香だったが…。

「何しに来たのよ! かえって!」
 
 絞り出すように言うと、百香の顔が一層こわばった。

「いつも聴いてるんだよ、百香の番組。百香の声が聞きたくてさ。」
 
 そう言って、胸元からスマホを取り出し、ラジオのエリアフリーソフトが
 開いた画面をこちらに向けた。辰郎はニヤリと笑い、ズカズカと足早に近
 づいてくる。慌てて後ずさりする百香。

「来ないで。警察を呼ぶわよ!」

「なに怖がってんだよ。そんな顔すんなって。」

「警察を呼ぶわ。」 

 百香がスマホに目を落とした。そのスキをついて、辰郎が彼女のスマホを
 強引にもぎ取った。百香は恐怖のあまり、頭をかかえるようにしてその場
 にしゃがみこんだ。頭上から彼の声がする。だが、もはやそれは意味のあ
 る言葉として聞き取れなかった。うわん、うわん、うわん、うわん・・・
 耳の奥でノイズが鳴り響く。それが、ある瞬間からひとつの言葉となって
 聞こえはじめ、百香は意識を集中した。

「・・・ケ、・・ンデケ、トンデケ」
 
 呪文のように繰り返し聞こえてくる。

「トンデケ、トンデケ、トンデケ」

 やがて、うわ言のように百香の口から漏れ出した。

「はあ? お前、何言ってんの? だいじょぶか?」

 不意に辰郎の手が百香の肩に触れた。途端に、百香が大声で叫んだ。

「トンデケー! トンデケー!! トンデケーー!!!」

 力の限り叫んだあと、百香はその場に突っ伏した。

 
 どれぐらいそこにいたのか・・・。
 右頬に何か硬くざらざらした感触を感じ、百香は目を覚ました。

「あれ? あたし、ベッドに寝てるんじゃないの?」

 百香は体を起こすと、肩をぶるっと震わせた。
 体がすっかり冷え切っている。
 おでこにキッと痛みが走った。触ると少し血が滲んでいた。
 おでこを押さえながら、立ち上がろうとして、ふと、辰郎の顔が浮かんだ。
 はっとして、辺りを見渡す。しかし、彼の姿はどこにもない。
 
「やだ、まさか… アレをやってしまったのかしら…」
 
 百香は階段を踏み外したかのような戦慄を覚えた。
 きっとそうだ。気絶したってことは、アレをやってしまったんだ…。
 ここ数十年、あの能力が発現することはなかったから
 きっと自然消滅したんだろうと、半ば忘れかけていた。

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