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八神家の養父切嗣
三十六話:思惑
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わせている。

「お前が良いのなら俺もこれ以上は言わん。今の俺は死者、生者に忠告など度が過ぎた真似だ」
「……その言葉はどうかと思うよ、ゼスト」

 自らを死者と語るゼストに対して初めて切嗣の表情が変わる。そのことに驚いたのは何もゼストだけでなく、切嗣本人もしまったと顔をしかめていた。

「俺は一度死んだ身だ。土に帰る僅かな間を過ごしているだけにすぎん」
「だが、それでもあなたは生きている。理不尽に命を奪われた者が望んだ―――今という時を」

 だから、あなたは何があっても生きなければならない。
 そう言われたような気がしてゼストは確かに贅沢な発言だったかと恥じる。同時に目の前の男がそのことを言ったことにとてつもない違和感と憐れみを覚える。切嗣自身もそれは分かっているのか複雑そうに目を背ける。

「皮肉なものだな。誰よりも理不尽に命を奪ってきたお前が、誰よりも命の尊さを理解しているとはな」
「そんなものじゃない。ただ……償いという自己満足に浸っていたいだけさ」
「自己満足か……。俺の行動もそうとれんこともないな」

 両者共に自嘲気味に呟いた後は不自然な程に痛々しい沈黙が流れる。その空気に耐えかねたのか、それとも用はもうないということなのか背を向けて歩き出す切嗣。ゼストはその背中を黙って見送っていたがその背中がもう見えなくなりかけた所で声を投げかける。

「エミヤ、お前の望みは何だ?」
「……世界平和だよ。最高評議会の望む世界を実現するだけだ」
「嘘だな、それはお前の望みではない。望みであれば必ず主体性がある。だが、今のお前は死者のように流されるままだ、それも意図的に。……何を企んでいる?」

 今の切嗣は最高評議会からの命令やスカリエッティからの依頼で動いているのがほとんどだ。命令されたことに忠実に従うだけの機械。だが、ゼストの直感は裏に何かかがあることを察知していた。このまま何もせずに終わるような男ではない。

 味方や上司を騙してまで何かを成そうとしている。そう感じられずにはいられなかった。切嗣はその懐疑の籠った視線を背中で受けながら二つある月を見上げる。その瞳には鏡のように月が写っているだけだった。


「人から争いを奪うなんてことは不可能だ。いかなる奇跡をもってしてもそれはできない。でも……人が争いをする必要を無くすことはできる。過去も未来も、そして現在もね」


 一体それはどういう意味だとゼストが尋ねる前に切嗣は歩き去っていく。
残されたゼストは一人背中に薄ら寒い何かを感じながら立ち尽くしていたのだった。





 一人の男が目の前にある大量の宝石のようなものを見て笑っていた。赤く輝く結晶に青いひし形の石のようなもの。それらはどちらもロストロギア。レリックはその総数は
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