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真・恋姫†無双~現代若人の歩み、佇み~
第一章:大地を見渡すこと その弐
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か、あるいはもう逃げる気すらしなかったのか、男は目の前の悪夢を是正するために勢いを止めない。両者共に刀を右に構えている。馬上にて一撃必殺を狙った構えだ。仁ノ助のそれとは違って、賊のそれはビクビクと小刻みに震えている。恐怖に負けずに自らを鼓舞し構えを崩さない賊の心のなんと健気なことか。やがて二人の馬が勢いよく交差する。顔を歪めた賊は交差する敵に向かって刀を力の限り思いっきり振るう。

(これで悪夢が消え去ったら、俺は実家に帰るんだ!!もう賊なんていやだ!!)

 その願いを叶えるかのように仁ノ助の刀が、男のそれよりも更に早く振るわれた。右胸あたりをざっくりと切り裂かれ、男は赤い血を宙にばらまきながら前かがみとなり、ゆっくりと横に崩れていった。賊の願いは自らの死でもって半ば実現することとなる。それを実現した男は馬をゆっくりと止めていき、自らが起こした戦果をを振り返った。
 三人の賊はいずれも素人目でもわかるくらいの致命傷だ。あの失血量ではいちいち死を確認し、あるいは止めをさすまでもない。馬を二頭も殺してしまったことが唯一の失点だ。町まで連れて行けば幾ばくかの金銭の代わりとなったであろうに。仁ノ助はそこまで思うと、自らの不手際に失意の息を出そうとする。
 その直前に、初めに倒した賊の姿が目に映った。まだ動いている。頭から地面に落とされたが無事のようだ。手綱を手放してすばやく受身を取ったのであろう、ゆっくりと立ち上がった賊は頭をぶんぶんと振っている。それでも右腕は左肩あたりを押さえている。顔は痛みと女が受けるはずだった屈辱を浮かべており、此方を殺意を込めて睨んでいる。逃げようともしないのは男が乗る馬が二頭とも仁ノ助の方に居るからか、または戦と共に培ってきた男の武の矜持のためか。
 仁ノ助は後者の意を尊重し、男まで七間《≒9.8メートル》の距離まで近づくと馬を降りて五歩近づいた。

「賊だな」
「・・・・・・だからなんだってんだ。今時珍しいもんでもねぇだろ」

 くだらない質問だという風に男は血が混じった唾を吐き捨てた。そして左に持った刀を右手に移し、下半身を静かに降ろし下段に構えた。

「・・・・・・殺る気か。ならその前に一つ尋ねたいことがある」
「あぁ?」
「貴様の髪を結わいている布はどういう意味を持つ?」
「・・・・・・・・・てめぇが知ったことでなんの得があるかわかんねぇが、教えてもいいぜ」

 賊が自らの問いに答え得る情報を持っているという確信が出る前に、賊は深く深呼吸をし、構えを力強くした。体を右に開き左足を前へ一歩出して、右足は膝が曲る程度に後ろへ下げる。左手は体の前に垂らされ、初めは下段に構えていた刀は肩の高さまで持ち上げられ、切っ先は天に向かって斜め前に向いている。この男の意が如実に分かった。すなわち、『俺を倒して
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