第五話 姉の苦悩その三
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「貴方は貴方よね」
「そこでどうしてそう言ったの?」
「何でもないわ」
また隠した、事実を。
「気にしないで」
「姉さん本当に変だよ」
「変になってるのよ」
「そう言うんだ」
「そう、けれどね」
「けれど?」
「優花は優花で」
自分で問うて本人からの返答を頭の中で反芻しつつ呟く様に言った。
「私はその優花の家族よね」
「そうだよね」
「そう、私は優花の姉よ」
その彼のというのだ。
「何があっても」
「飲み過ぎ?」
「飲み過ぎなのもわかってるわ」
「色々難しいこと考えてるんだね」
「ええ、多分ね」
「そう言って飲んで」
「今日もこれだけ飲んだら」
今飲んでいるバーボンのボトル、もう既に半ばまで開けられているそれを見つつまた言った優子だった。
「寝るわ」
「今日はもうお風呂入ったからね」
「そうするわ」
「じゃあね」
「幾ら飲んでも」
ボトルを見続けつつ言った。
「気が晴れないわ」
「自棄酒?」
「自棄酒でもないけれど」
それでもという返事だった。
「忘れたいから飲んでるのよ」
「忘れたいんだ」
「いえ、忘れたいっていうか」
自分で自分の言葉を訂正した。
「気を晴らしたい、逃げたいのかもね」
「現実逃避?」
「そうかも知れないわね」
なぜ飲むかという理由も言った。
「そうかも知れないわね」
「現実逃避で飲むのならね」
「絶対に止めた方がいいわよね」
「それってお酒に溺れる飲み方だよね」
「このことも優花に言ったわよね」
「前にね」
「その通りよ」
自嘲も込めてだ、優子は言った。
「実際にそうした時に飲むとね」
「そのまま溺れてだよね」
「どうしようもなくなるわ」
「じゃあ止めた方がいいよ」
心から心配する顔と声でだ、優花は姉に言った。
「それなら」
「だからそれはわかってるのよ」
他ならぬ優子自身がというのだ。
「もうね、けれどね」
「またそこで飲まずにはっていうのね」
「そう、今はね」
「何ともないといいけれど」
「そこまでは飲まないから」
「充分飲んでるよ」
「そうよね、けれども潰れるまでは飲まないから」
溺れて身体はおろか心まで壊れるまでにはというのだ。医者としてよりも人間として、優子の中にあるそれのリミッターがそうさせているのだ。
「安心してね」
「明日も飲むんだよね」
「絶対にね」
優子は素直にだ、優花に返した。
「そうなるわ」
「もう何日も飲んでるけれど」
「そうね、十日は続けてるわね」
「それで身体大丈夫なの?」
「まだね」
「そのうち本当に潰れるよ」
「潰れないまでに終わればいいわね」
何が終わるかはだ、言った優子自身もわからなかった。だが。
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