理と欲と望みと
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からだ。状況確認は別にいいが本人確認だけは絶対に二人きりでさせてもらう」
何処か引っ掛かりを覚えながらもその圧力に圧される。静かに目を閉じた詠は、小さく首を頷けた。
「分かった。じゃあ先にボクからあの時のこと話すわ。でも……」
すっと目線を後ろの少女に向けて、冷たい声を流した。
「助手の同席は無しでお願いね」
「いいだろう。承知した」
ビクリと肩を震わせた蒲公英。華佗は仕方なしと首を振る。ゆるりと立ち上がった秋斗は天幕の外へと歩みを進め始めた。
「えーりん、終わったら華佗先生を俺の天幕に案内してくれ」
「ん、了解。この子はどうする?」
「猪々子を呼んでおくよ。多分、実力的には同じくらいだと思うから。そうだろ、馬家の武官さん?」
横を抜け際に発された声は楽しげで、下から睨み上げる憎しみの籠った瞳を飄々と受け流す。
口元を歪ませた彼は視線を合わせようともせずに通り過ぎた。
「憎しみを持ってるのがお前だけだと思うなよ? お前んとこの主が奪った幸せも確かにあったんだから。俺達はその清算をしに行くに過ぎない」
激情に支配されそうになった心をどうにか抑え付ける。
蒲公英の中には、先日謁見に来た儚げな侍女の姿が浮かんでいた。芽生えている疑念はある。正義感が強いからこそ、自分達に対する欺瞞にやるせなさを感じてしまう。
そんな彼女の空気を見抜いてか知らずか、彼は去り際、小さく笑った。
「迷うなよ。迷ったら俺らに喰われるだけだ。絶対に譲れない誇りがあるのなら、気高い心のままに戦えばいい。曹操軍はそういう奴等との戦いを求めてる。
まあ、ソレとは別の大バカ者どもと戦いたいってんなら……戦場で会えるのを楽しみにしてるよ、武官さん」
バサリ……閉じられる天幕の入り口を三者三様の眼が見つめていた。
詠は普段通りの呆れのため息を零しながら。
蒲公英は困惑したような表情で固まったまま。
華佗は……苦々しげに、怯えを孕ませながら。
†
記憶喪失の状況を確認し、秋斗の天幕を訪れた華佗。
迎えた秋斗は脚を組んで椅子に座りながらお茶を嗜んでいた。
緩い空気に気の抜けた表情は先ほどまでとはまるで違うように感じながらも、華佗は促されるままに椅子に腰を下ろす。
コポコポと湯飲みにお茶が注がれる。香りの良い緑茶は精神を和らげる効果がある。
「緑茶か」
「緑茶の成分は心の鎮静作用を僅かに含んでいるらしい。殺菌消毒……あー、怪我の悪化を防ぐことも出来るんだが、やっぱお前さんなら知ってるかね」
「まあ、な。しかし武将のあんたが知ってることこそ異常だと思う」
「クク、それもそうだ。旅をしてきた時の名残でさ、一応は色んな知識
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