理と欲と望みと
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とも。
「へぇ……さすがは医者か。んじゃあ戯れに問いたいんだがいいかな?」
楽しげな声を紡いだ彼が口の端を吊り上げる。何を……というより速く、彼は質問を華佗に投げかけた。
「お前さんが救いたいと望んだ相手がこれから先に大量の人間を殺すって分かってても、お前さんは救うのかね?」
救いたいと願う尊き想いを否定するような質問に、詠は眉根を寄せる。
それは彼が徐晃隊に言い聞かせるような侵略者の理論。はたまた、彼や華琳が理解した上で敵を踏み潰している行いそのモノに対しての問いかけ。
ああそうか、と遅れて気付く。
――秋斗は華佗を……値踏みしてるんだ。
神医とまで呼ばれるモノを、彼が欲しがらないはずはない。
医学の発展は間違いなく国益となる。疫病の抑制はこの時代において大きな問題点。医学に従事するモノが少ないというのも原因の一つであった。
故に、彼は華佗を推しはかる。彼自身の信念を問いかけることによって。
じっと秋斗の眼を見つめる華佗には不快さは無い。煌々と輝く意思を宿した瞳には、炎が燃えていた。
「愚問だな、黒麒麟」
呆れともとれる声音は力強く、揺るぎない。
「俺の患者に善悪なんかない。俺はただ、目の前の人を救うだけだ。救いを求める声に応えるだけだ。掬える命を掬い上げるだけだ。喘ぐ苦しみを打ち消すだけだ。
俺は正義の味方じゃない。人の命を救い、病魔を滅する……医者なんだよ」
苦悩があったのだろうと分かる目。渦巻く感情は、きっと絶望と希望。人が人を殺す世を憂いて、それでも人を救うことを選んだ。
人の本質を知りながらも、華佗は己の“目の前の人を救いたい”という欲を推し通しているということ。それはまるで、華琳や秋斗、そして桃香のように。
小さく苦笑した秋斗は喉を鳴らす。結ばれた視線をそっと外した。
「そうか、つまらんことを聞いた。なるほどなるほど……確かにお前さんは生粋の医者なようだ。
お前さんの元患者がどんな行いをするか、そしてそれをどうするかは政治屋の責任だわな。悪かった」
責任転嫁であったと彼は謝罪を一つ。
元患者が大量虐殺を行うとしても、それは華佗の責任にはならない。止められないのは為政者の責任である。
話を変えよう、と彼は視線を戻した。もはや聞きたいことは無かった。
「問診が最初か?」
「ああ、まずは喪失の状況を聞きたい。後は本人に確認事項がいくつか」
「この子に記憶喪失前後の状況は聞いてくれ。現状と本人の自覚症状はその後で話そうかね」
「ああ。ただし状況確認は荀攸殿と、本人確認や治療は黒麒麟との一対一で行う」
別々で、と言われて詠は華佗を睨んだ。
「なんでよ?」
「他の人には聞かれたくないような質問もする
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