理と欲と望みと
[4/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
受けた優しさを返さなければ。与えてくれた想いを贈らなければ。
せめて彼の望みを少しでも叶えたい……そう、朱里は願った。
小さく唇を噛んで、彼女は心を決めた。見上げる瞳には決意の炎。信じることが彼の力。それならば、自分は可能性を信じよう。託すこともまた、人としての力なのだ。
「華佗さん、お願いがあります」
ゆるりと流れる午後のこと。
熱い想いを持った男は少女の願いを笑顔で聞き入れる。
任せておけと自身の胸を叩いて、神医は己の信念に誓って救うと約束を結んだ。
隣で話を聞きながら蒲公英は何も言えなかった。華佗が西涼の敵であろうと治療をする男だということは知っていたから、というのも一つ。朱里の悲哀に溢れる瞳に同情したというのも一つ。
自分も着いて行くと言った目には、ほんの少しの怨嗟が燃えていた。
†
夕暮れが色濃く浮かび上がる逢魔が刻。急な来訪者は詠と秋斗の前に立っていた。
まさかこんなに呆気なく出会えるとは思わなかった人物……“神医”華佗。そして助手の少女が一人。
とりあえずとお茶を出したのはいいモノの、此処に来たということは記憶喪失の事が関係しているのは明白であろう。
何処から漏れたのか、とまず訝しんだのは詠。しかし助手と名乗る少女に何故か既視感を感じて……思い至る。
――この子……馬超に雰囲気が似てる。もしかして西涼からの密使?
連合戦では、洛陽の城壁の上から俯瞰していたのだ。思い出せばいろいろとイトが繋がって行く。
そろそろ何かしらのアクションを起こして来るとは考えていたが、まさか使者に華佗をやるとは思わなかった。
聞きたいことは山ほどあるが……とりあえずは此処に華佗が来た原因が何かは分かった。
――朱里か。たまたま使者として華佗が来たから罪悪感に耐えられずその事実を漏らしたってわけね。
願っても無い。月と詠の第一目的である華佗との邂逅は果たせたわけである。記憶が戻る可能性は自分で確認しているのだから、もしかしたら神医の力ならば治せるやもと期待してしまうのも詮なきかな。
機密事項がばれているのはこの際目を瞑ることにする。どうせいつかはばれることだ。戻っているのかいないのかと悩ませることすら策に出来るのだし、この好機をまずは逃すまいと詠は気を引き締めた。
「突然の来訪に茶菓子まで出して貰い感謝する」
「華佗、って言ったかしら? 要件を聞こうじゃないの」
「そこに患者が居るのなら俺は治したい。目の前の救える人を見捨てることは出来ない。救ってほしいと願われたら救わずに居られない。だから此処に来た」
まるで秋斗のような考えだ、と詠は思った。同時に桃香のようだ、
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ