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異界の王女と人狼の騎士
第八十話
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…いつまでもこの状況を続ける訳にはいかない、な。どこかで俺のスタミナが切れてしまうだろうから。だから、どこかで勝負をかけざるをえないんだ。
「そう、お前も強くなったかもしれない。けれど、まだ俺に勝てるレベルには無いよ。俺とお前との決定的な違い、そう、経験値が違いすぎるんだ」
 と、あえて挑発するような言葉を吐く。悟られぬように。 
 でも、俺の話したことは嘘じゃない。3倍のスピードで動いたというだけでは、この不利な条件下での漆多の攻撃は防ぎきれるものではない。今のところ何とか無事でいられるのは、これまでくぐってきた死線での経験で与えられている、いわゆる【戦うことの直感】の賜だと思う。それだけじゃない。宿主は変わったといっても中身はずっと同じ寄生根。攻撃の傾向もどうしたって似通って来るんだ。よってその繰り出してくる攻撃もある程度までは読めるわけだ。それらの俺にとって有利な条件が無かったなら、4倍速いや5倍速以上の加速度を要求されることになるかもしれない。……さすがにそのレベルの力で長期戦は未経験だ。体がどのくらい耐えられるかなんて分からないんだから。魔力供給を受けての瞬間的回復を使えない俺にはあまりにリスクが高い。

「違う、違う違う! そんなはずはない。だって正義は俺にあるんだぞ。月人、お前のような、お前のような腐れ外道に負けるはずがないんだ。寧々を見殺しにするような糞ったれになんか……絶対に絶対にだ!! 」

「違う、それは違う。俺は寧々を見殺しになんてしていない」

「この期に及んで何を言うか!! 積み上げられた事実が全てを示している。お前は寧々を見捨てて逃げた。そして寧々は殺されてしまったんだ。なのに……お前は、その化け物のような力を手に入れたんだ! 俺や寧々は全てを失ったというのに、お前だけはうまいこと立ち回って、全てを得たんだ。そんな不条理が許されるって言うのかよ」
 憎悪のみに瞳を燃やし、俺を睨み付ける漆多。

「俺が寧々を見捨てただって? そんなことするわけがない。そんなわけないだろう! ……確かに、守りきれなかったのは事実だよ。だけど、俺は俺で、必死でなんとかしようとしたんだ。それだけは分かってくれ」

「嘘をつくんじゃない」

「嘘じゃない。寧々を殺したのは、如月流星に巣くった寄生根であり、それに操られた如月なんだ。そして、それは今、お前の中にいる。寧々の仇はお前の中にいるんだ。だからお前だって本当の事を知っているんじゃないのか? 薄々は気づいているんだろう」

「ふふふん。寧々の仇は俺の中にいる……か。……だから、お前は俺を殺すって論理展開か。そして、俺は寧々の仇を討ちたかったら黙ってお前に殺されろって事か? そうやって俺に死を強いるのか? お前は。クハハハハ、お笑いだよ、そしてやっぱり卑怯者だよな」

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