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異界の王女と人狼の騎士
第七十八話
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なんだから。だから、紫音は、もう帰ったほうがいい。危ないから送っていくよ」
 これ以上の会話を続けるときっとぼろが出る。彼女にばれてしまうだろう。
 だから、これ以上の話は打ち切りだ。

「……私にも話してくれないんだ」
 とポツリと彼女がつぶやく。そして寂しそうに笑う。
「お願い。もう一度訊くから教えて。……これからどこに、何をしに行くの? 」

「……」
 俺は沈黙をもって答える。

「……これが最後。お願い、私には本当の事を教えて」

「……紫音、ごめん。言えない。心配しないで、としか言えない」

「ねえ、本当に後悔しない? 」
 どういうわけか彼女の瞳が潤んでいるように見える。何か、相当に思いつめたような表情になる。
 何故、そこまでこだわるんだ? そう訊こうと思ったけど、言葉にまではならなかった。

 そして俺は頷く。

「わかったわ。……シュウ君が決めたことだから、これ以上は訊かない」
 そして笑った。
 その笑顔は悲しげだった。
 ―――あまりに。

「送っていくよ」
 俺は彼女に一歩踏み出す。

「来ないで! 」
 ピシャリと言われ、俺は動けなくなった。
 紫音は俺に背を向けると、
「だ、大丈夫だから。……私は一人で帰られるから。……大丈夫」
 その声は少し震えている。
「わ、私、行くね」
 俺が声をかける暇も与えず、彼女は改札を抜けて走り去って言った。

 紫音がこんな時間に何故現れ、俺に尋ねたか……。
 その真意を図ることはできなかった。
 後を追って問いただすこともできたかもしれない。
 でも、それができないでいたんだ。
 予感めいたものがあったんだ。訊いたら何かが壊れてしまいそうな気がした。
 どうしてそんなことを思ったのか判らない。でも、これ以上は踏み込んではならないと思った。

 ただ言えることは、今、何かが変わってしまったと感じていたということだ。
 きっと、……もう取り返しの付かないことなんだろうと。
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