第五十四話 所詮は帽子の羽飾り
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帝国暦 489年 4月 12日 オーディン 新無憂宮 翠玉の間 ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ
久しぶりに行われた政府主催の親睦パーティ、新無憂宮翠玉の間は大勢の人で賑わっていた。もっとも出席者の顔ぶれは内乱以前に比べればかなり違う。以前は貴族が主体だった。ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯、そしてその取り巻きの貴族達……。しかし今は出席者の大部分が下級貴族、平民だ。軍人、政府閣僚、高級官僚。かつて栄華を誇った貴族は少数派と言って良い。
それも仕方が無い、パーティの主催者が平民なのだ。エーリッヒ・ヴァレンシュタイン、帝国軍最高司令官兼帝国宰相、この国の最高権力者。彼は実力でその地位に就いた。その気になれば貴族になる事も簡単だ。だが彼はその事に何の関心も払わない。爵位に等何の興味も無いのだろう。誰かが貴族になる事を勧めれば冷笑するに違いない。
「久しぶりですね、シュテルンビルト子爵夫人、ノルトリヒト子爵夫人。お元気でしたか?」
宰相閣下がシュテルンビルト子爵夫人、ノルトリヒト子爵夫人に和やかに声をかけた。元はブラウンシュバイク公爵夫人、リッテンハイム侯爵夫人だった。反逆者の妻だったとはいえ二人ともフリードリヒ四世の娘、皇族だ。
「お陰様で私も妹も元気にしております。宰相閣下には何時もお気遣い頂き感謝しております」
シュテルンビルト子爵夫人が笑みを浮かべて答えた。ノルトリヒト子爵夫人も笑みを浮かべている。帝国最大の権力者が一番最初に声をかけた。その事はこの二人が帝国でもっとも大事な、敬意を払うべき存在である事を意味する。彼女達にとってこれほど自尊心をくすぐる事は無い筈だ。多くの出席者も注目している。
「フロイライン達はお元気ですか?」
「はい、エリザベートもサビーネも元気にしております」
「それは良かった。生活環境が変わって苦労しているのではないかと心配していたのです。難しい御年頃ですからね」
「有難うございます宰相閣下。娘達も閣下のお気遣いを知れば喜ぶでしょう」
「シュテルンビルト子爵家、ノルトリヒト子爵家は大切な存在ですから当然の事です」
和やかに宰相閣下とシュテルンビルト子爵夫人が話している。知らない人にはかつてこの二人が敵対し子爵夫人達が夫を殺された等とは信じられないだろう。だがここで交わされた会話は一つ一つに意味が有る。この場には居ない二人の娘について話したのがそうだ。当代だけでなく次代の当主にも関心を持っている、そして両子爵家は大切な存在と言った。次代になってもその待遇は変わらない。両家にとってこれ以上の保証は無い。
「領地経営で困った事は有りませんか?」
「今のところは特に有りません、そうでしょう、クリスティーネ」
「ええ、お姉様」
「そうですか、何か困ったことが
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