西住みほと角谷杏
[2/3]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
。
ティッシュで先っちょを拭ってから軸を指ではじき、羽毛でできた梵天の埃を払って形を整える。
「会長、耳掃除しますね」
「ん」
耳にかかった髪の毛をかき分け小さく愛らしい耳たぶを少しだけ摘まんで、耳かきの先端から数センチ手前を持つ。
戦車道の時とは真逆の、力を加えないごく軽く細かい指の動き。
そおっと会長の耳の穴の中を撫でてると、ふう、と会長の小さな吐息が漏れた。
梵天で耳全体を丹念にお掃除してもう一度ティッシュで拭い、片耳はおしまい。
「もう片方、いいですか?」
「うん」
そのまま寝返りを打って……わたしのお腹に顔を向けようとするのを、肩を押さえて止める。
「だーめ」
「いいじゃん」
「吐息がおへそにかかってくすぐったいんです。もし手が滑って会長のお耳を傷つけたら……」
「分かったよ、西住ちゃん」
会長が身を起こす。わたしはベンチの反対側に移動する。
ベンチに腰を下ろしてすぐ、会長の頭がぽふっ、と膝に乗ってくる。
「行きます」
「お願いね」
小さな会長の小さなお耳。それを弄る権利は今はわたしだけのもの。
「小山先輩や河嶋先輩にも、耳掃除をお願いしてたんですか?」
「ううん、西住ちゃんだけだよ……小山は恥ずかしがるし、かーしまは……」
「河嶋先輩は?」
「……外しまくりのあいつにやらせるのは、あぶない」
「ぷっ」
いちど耳かきを会長の耳から離して、手をおさえる。
「くす、ふふ、ふふっ」
「ふふふ、あはははっ」
他愛無いことをしながら他愛無い会話でクスクスと笑う。会長の頭が膝の上でもぞもぞするたびに、くすぐったさを覚える。
でも……こんな他愛の無いことが、幸せ。
ちょっと強い秋風がわたしと会長を包み込み、大洗の方に向けて駆け抜けて行った。
「西住ちゃん。私さ、大学行ったら戦車道辞める」
「えっ?」
耳掃除を終えペンケースに入れた耳かきをカバンに戻すと、膝枕のままの会長がぽつんとつぶやいた。
「砲手としても優秀なのに、もったいないですよ」
「法学部に入って一生懸命勉強して、国家公務員試験に合格して、文科省に入るんだ」
「……」
「キャリア官僚になって、学園艦事務局に入る。30歳までに事務局長になる」
「会長……」
「誰もあんな目に遭わせたくない。財務省が予算削減だ何だって言ってきたって、絶対はねのけてやるんだ」
会長の声が、だんだんと大きく力強くなってくる。
「それでも、もし……」
「もし?」
「……どこかの学園艦をどうしても廃校にしなければいけなくなったら、私は……生徒、職員、学園艦で働く人たち、何万の人たちに会って、ごめんなさい! って頭を下げて、納得の行くまで話し合って、交渉して……全員がどうにかこうにか納得できるまで、絶対に廃校にし
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ