三十三話:傍に居る人
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言ってるの…?」
何も映していないガラス球のような瞳に見つめられてティアナは息を呑む。この瞬間に彼女はスバルの歪みをはっきりと感じ取る。人は誰であれ自分の為に生きようとするものだ。そうでなければ人は生きていけない。だというのにスバルは誰かの為に生きる以外の道を知らない。
己を罪深い存在だと意識しているが故に懺悔を、償いをしていくことでしか生きる権利が無いと思い込んでいる。これはある種の病気だろう。聖人かと見間違う他者への奉公滅私は全て罪の意識から成り立ったものであり人間的なものではない。
自分が生きたいから、死にたくないから、誰かの為になりたいからという自己から零れ落ちた願いではなく全てはそうしなければならないという義務感と強迫観念。それは全て願いではない。ただ機械的にこなされる―――作業だ。
「あ、ごめん……急に変なこと言って」
「スバル、あの男に何を言われたかはあたしは知らない。でも、信用できない奴の言葉に惑わされるのはダメ」
「でも、あたしは言われたとおりに機械かもしれなくて―――」
自信無さげに呟いたところで額に強烈なデコピンをお見舞いされるスバル。思わず大きくのけぞり目を瞬かせる。恐る恐るティアナの様子をうかがうと明らかに怒り心頭といった姿が目に入る。地雷を踏んでしまったと気づいた時には既に遅く説教が開始していた。
「あんたは人間でしょ! それともあたしは人形に毎日話しかけてる痛い人だって言うつもり?」
「そ、そんなことないけど……」
「あんたは確かに色々あって歪んでいるかもしれない。でも、いつも無理をしてあたしをイライラさせるあんたが機械のはずがないでしょ。今もそうよ。機械にムキになって怒鳴りつけているなんて馬鹿みたいじゃない。だからあんたは人間よ。あんたがどんな生き方をしても周りの人間があんたを人間として扱う以上はあんたは人間、わかった?」
一切の反論を許されずに捲し立てられた内容にスバルは目を白黒させる。脳が言葉の内容を理解するまでにやたらと時間がかかる。そもそもティアナの言葉など理解できないかもしれなかった。だが、ただひたすらに―――嬉しかった。
自分を肯定してくれていることが嬉しかった。自分を受け入れてくれることが嬉しかった。自分の傍に居てくれることが、嬉しかった。どうすればいいかの答えはまだ出ない。しかしながら、答えを決めることが出来る勇気を得ることはできた。
「ありがとう……元気が出た」
「あっそ。ま、あれだけ恥ずかしいセリフを言ったんだからそうでないと困るわ」
耳を赤くしながらも何とかツンとした態度を保とうとするティアナに苦笑いする。彼女はとても優しいのにその優しさの出し方を上手く知らない。そんな不器用にも見える点がスバルは好きだった。
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