暁 〜小説投稿サイト〜
鎮守府の床屋
番外編 〜喫茶店のマスター〜
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 一通り受け答えをした後、店員さんは受話器を置いてこっちに戻ってきた。……なんというか、とてもめんどくさそうな、どよーんとした顔をしていた。

「ごめんごめん。で、なんだっけ?」
「あ、いや……甘党に見えますかーって」
「あーそうだった。んー……なんでだろね。私もよくわかんないな。嫌だった?」
「いや全然イヤじゃないです。むしろうれしかったです」
「ならよかったよ」

 これは本当に素直な気持ちだった。店員さんがサービスしてくれたカフェオレのおかげで、僕の見える世界に色が戻った。胸に溜ってた嫌な気持ちが、たった一口の温かいカフェオレのおかげで溜息と一緒に出ていったのは、とてもありがたかった。

「よかったらまた来てね。お客さん少ないけど、いつでも開いてるから」
「うん。また来ます。店員さんはいつもいるんですか?」
「そうだよー。ここ、私の店だから」

 そっか。この人、やっぱりこのお店のマスターなのか。店員さん……マスターに別れを告げ、コーヒー代だけを払って店を出る。ドアを通る時……

「あ……すみません……」

 僕よりも背の高い、だいぶ年上の男性がすれ違いで店に入ってきた。その男性は僕に笑顔で軽く会釈すると、そのまま店内の方に入っていき、マスターと二言三言、楽しそうに言葉をかわしていた。

「ごめんなー」
「いやー、別に謝らなくていいけどさー……」

 とても親しげに話す二人の光景が、自分には手に入れることの出来なかったものだと気付いて、あの時の僕は少し落ち込んだものだった。あの時の二人、お似合いの二人だったなぁ……。

 その日を境に、僕はこの不思議な喫茶店『ミア&リリー』に足を運ぶ機会が増えた。何か嬉しいことや悲しいことがあったとき、何かをなしとげた時、何かに失敗した時……

「あ、いらっしゃーい。今日も勉強?」
「はい。試験近いんで」
「あそ。がんばってねー」

 何かを頑張りたい時や、単純にお昼ご飯が美味しかった時……足繁く、このミア&リリーに通うようになった。

 窓から少し離れた指定席に座り、参考書とノートを広げる。試験が近い。自分の家で勉強すれば余計なお金がかからなくてリーズナブルなんだけど……

「ほい。ご注文のコーヒー」
「ありがとうございます」
「んじゃーがんばってー」

 マスターがそういい、去り際に角砂糖を一つコーヒーに落としていってくれた。このミア&リリーのノスタルジーで落ち着く雰囲気と、マスターのこの決して踏み込んでこない優しさや気遣いというものが、僕にはとても心地よかった。

「ほい。じゃあコーヒー一杯で400円だよー」
「じゃあ500円から」
「まいどー。お釣りが……ん?」

 いつも通りなら、ここでお釣りを受け取って終わりのはずだ
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